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辻仁成「ワイルドフラワー」(集英社)
 ニューヨークの酒バー「酒友」にはホステスの香奈江を目当てに、自分がゲイであることを悩んでいる夢野、師匠に自分の奥さんを誘惑するようにそそのかされているカメラマン坊城、あらゆるしがらみや重荷になった妻子から逃げて暮らしている小説家久遠――彼らはあらゆる理由から香奈江を求めている。「酒友」の常連たちでありながら三人が仲むつまじく飲んでいることはない。この小説で三人が一同に介する場面は、香奈江を巡っての暴力が乱立するときぐらい。
 三人三様の性描写がこれでもかというくらい出てくるが、ちっとも嫌らしさを感じないのは、裸になっても心まで裸になれない、たとえ大好きな香奈江の目の前であってもさらけ出すことのできない自分にそれぞれが絶望しているからだと。
 もっと言うと、ひとりの人間が「香奈江だぁ〜いすき♪」と人格を三つに分裂させながら、必死でもがいて求めている図にも取れる。なぜこういうことを言うのかというと――最後まで読めばわかります。
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