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辻仁成「嫉妬の香り」(小学館)
 この小説には駄目な男女が二人ずつ出てきて、だんだん駄目になっていきます。いやちがう、駄目になる課程に至れば至るほど、観念的な言葉で本の紙面が埋め尽くされてくるのに、堕ちていくリアルな感覚に引っ張られていきます。
 癒しの環境音楽や建築の設定に携わるという、こじゃれな職業と気の利いた会話、そして全編を担う、匂いについての探求。設定だけ読むとむかついてくるかもしれません。気障ったらしいかもしれません。だけど、彼らが「駄目になっていくのだろうな」というのは、章の始めからすぐに示唆されています。読者は持ち合わせたサディズムでもって、彼らの駄目さ加減。大人のふりをした子どもっぽさを観察していくこともできます。彼らの中に真の大人はいません。愛を守ろうとするより、たたき壊して再構築した方がましだという性急さがあり、それはいかにも子どもっぽくて、安っぽい未来しか信じていない考え方だから。その安っぽさでそれぞれが、その人なりの自滅をしていく……。(2001/07/16)
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