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▼村上龍「THE MASK CLUB」(メディアファクトリー)
九十年代以降の村上龍の作品には、とにかく情けない男、というのが出てくる。ときには主人公にもなる。本作にも「両親は平凡、自分も平凡な書店員。性行為はほとんどなく、あったとしても風俗ぐらい」という男が語り手として登場するが、以前の村上龍なら、もっとヒーロー的でカリスマ性ある人物を持ってきていた。その語り手は、ひょんなことから知り合ったミキという女性が、実はSM嬢であることを知り、その現場を見たいと思って後をつけたら、背中からアイスピック状の金属で刺されて死ぬ。そして死者としての存在から、ミキを含めたTHE MASK CLUBの七人の女たちの正体をつきとめていく――。記号としての「SM嬢」の使用法は十年前から変わってない。そして本文中に、登場人物たちの台詞を借りて表現される著者の主張も、これまた変わってない。変わったのは、凛々しい男があまり登場しないこと
もちろん村上龍が中年男として、肩を並べて同年代に関わる悲哀に対してエールを送る、なんてことはさらさらなくて、SM嬢の言葉でもって徹底的にこき下ろすだけ。かつての彼の小説に出てきた「理想像の男」を描くより、「どこにでもいるような男」を描く方が、よりリアルで普遍性がある。それは、主人公を含めて「他の、殺されて存在だけになった男」たちに名前がないことによって明示化されている。(2001/08/01)
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