←前へ
次へ→
戻る
▼橋本治『つばめの来る日』(角川文庫)
短編集。前半まで読み進めて「何でこの人のエッセイはあんなにラディカルなのに、短編小説はいつもしみじみしているんだろう」と思っていると、後半になって違ってきた。
ノートの貸し借りを通じて巡り会った大学の女友だち美由紀と、勉強することになってその子の部屋に単身入って、「男と女の予感」を感じつつも、持ってきてもらったコーヒーの薄さから「もしかしたら結婚とはこういうものかもしれない」と思いつつ、その場では勉強する以外に何事も起こらないままの直司。(水仙)親戚の縁故で建築会社に就職するが、とにかく女にもてない。地元のヘルスやフィリピーナの店に出入りしても自分の存在を女に覚えてもらえないと悩み、東京の出張で必ずデリバリーヘルスを頼み、女が出ていく時に違和感を感じる喜久雄。「なんで喜久雄がもてないのかというと、(中略)ただひたすらに目つきが悪いからだ。女を見ると緊張して、その緊張がすべて目に凝縮して表われる。それがいつの間にか、普段のものになってしまった。自分にしか関心がないから、女相手に冗談も言えない。喜久雄と向かい合った女は、緊張で脂汗をかいているような男に、すごい目つきで胸元を凝視されている結果になる。そんな男のことは一刻も早く忘れたいから、喜久雄のことは「いやな記憶」として処理され、忘れられてしまう。だから喜久雄は、女に顔を覚えてもらえない。記憶を取り戻すまでの女の空白が、矜り高い喜久雄には我慢出来ない。」(歯ブラシ)身勝手な女に一方的に別れを切り出され、女遊びを続けるうちに他者との向かい方を見定め、独身寮を出てガーデニングを始めた貴雄。(カーテン)浮気の経験があり、それ以来妻とは気まずくなりつつも穏やかに暮らし続け、定年後の楽しみは自分よりずっと若いアイドルの水着写真集しかない耕三。(甘酒)料理学校で「コックの適性がない」として山のペンションに追いやられ、以後人間関係から遠い世界で長年暮らしていたが、ある青年が自分の職場にやってきたことで希望が見いだされた忠繁。(寒山拾得[かんざんじっとく])
解説によると、「孤独なことに気づいていない男たちの、孤独についての小説」ということだ。
青春期の孤独に対する容赦のなさは、『桃尻娘』(←関係ないけど、今、語尾に「。」つけそうになった)シリーズ時代から相変わらず。
「一人の人間を主人公にした短編小説を最低百本は書きたい」と語っている作者は同時に「今の女を書くのは難しい」とも語っている。そういえば九十年代以降になって、橋本治が女の子を主人公にした小説を書いているのをあまり目にしたことありませんでしたね。この方も五十代ですし、現代女子にシンクロできなくなったのか。村上龍のお家芸だけにしないで、ぜひ書いていただきたい、一読者のわがままですが。
▼ええと、初めて橋本治の小説を読む人に、蛇足ながら加えておきますが、ホモセクシャルのカップルが当たり前のようにいる空間は、橋本治小説の世界では普通ですから。この作品集だと『あじフライ』『寒山拾得』などがそれ。(なぜからレズピアンはいない)(2001/10/14)
←前へ
次へ→
戻る