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▼村上龍『イン・ザ・ミソスープ』(読売新聞社)
(小谷野敦によると)現代を代表する恋愛小説の書き手による、恋愛とまったく関係のない小説。
つうか、自身の談話やこの本の書評などで有名になっている話ですが、この作品は読売夕刊で1997年1月〜7月まで連載されると同時期、神戸市須磨区の事件が発生し、当時十四歳の中学生が容疑者として逮捕された。
ただ、著者が「あの事件の現実により、想像力世界が負けそうになった」と告白してはいても、直接あの事件の物語とこの物語の接点はかなり薄いとみていいと思う。
非合法ながら、外人観光客を風俗に引率する稼業をしている二十歳のケンジ。彼は地元の母親に予備校に言っていると偽っているが、裏ではその稼業に手を染めつつ、女子高生ジュンとつきあっている。
フランクと名乗る男からの依頼で、十二月二十九日から三日間のガイドを請け負った。しかし実際に会ったフランクは何か尋ねるごとに嘘をついているとわかるような素振り。そして笑ったときの顔が得体の知れないくらいに人工的である(この本の表紙にある装画みたいなやつなんでしょ)ことに、ケンジも、ケンジの知り合いである風俗の子も戦慄する――ケンジはフランクの正体を知ろうと企んでいるうちに――。
この小説は一貫して「わからない」というフレーズが頻出する。ケンジがフランクに日本の文化、がんじがらめになった悪習、日本の女子のプライドのなさなど、元々の英語力が劣っている上に、こう説明するより仕方がないという説明をするが、フランクは「わからない」と言う。そう返されると、ケンジ自身も不安になってくる。今度はケンジ自身が「わかならい」と自問自答してしまう。 このフランクという登場人物は、本当にアメリカ人なのか、著者が作ったアメリカ人像で実際のアメリカ人とは乖離があるかもしれない。ひょっとすると日本国外の人間ならアメリカ人ではなく、どんな国の人間でも舞台装置として十分条件に達していたかもしれない。「日本人対異邦人」の図式に則っていれば。
風俗で働く女の子、という村上龍による典型的な舞台装置を崩さずに、ある種の感傷を携えてラストまで引っ張ったのは立派。(2001/10/17)
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