■◇■ ある理不尽の肖像 ■■■■

 --- すべてのカナコファンに捧ぐ ---

▽ 続コンビネーション :雑文7 act.15 を一部改訂 (2000/06/23)

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 職場での我が隣人であるカナちゃんはアルバイト職員なのでボーナスが出ない。我々は正社員なので然るべき時には然るべき額面のおボーナスがもらえる。そしてそのふたつの事実は、何故だかわからないが、うちの職場ではボーナスが出ると係長がアルバイトの女の子に昼食をご馳走するという妙な慣例を生み出す結果となっている。
 カナちゃんは僕が今の職場に来るよりも何年も前から当職場に居座っているので、こういった慣例的なモノ(もちろん自分に都合の良い慣例に限る)に通じているのだ。そこでボーナスが出る、夏と冬の然るべき時期になると、私の知らないうちに私の机上カレンダーに

 「ラブラブデートの日

 という書き込みをしている。つまり、その日に昼食をご馳走しろというのである。もちろんピタリ、ボーナス配給日。
 ここで私は毎度不思議に思うことがある。上記のとおり、我が職場慣例となっているボーナス昼食会というのは、「係長が」「アルバイトの女の子」に昼食を披露するというふうに聞いている。にもかかわらず、連れていくのはいつの日からか私なのである。(いつからかってゆーか、私が就職して以来であるようだ。)

 しかし、まぁそこまでは我慢しよう。皆まで言うまい。我慢我慢である。ところが今年に限って何故か後輩の男の子までついてきた。私の唯一無二の後輩にして20世紀最期の小生意気小僧坂田君(通称さかぼう)である。私は、オマエはボーナスもらっただろう、コンチクショーめ。と心の中でツッコミながらも一応先輩としてのプライドもあるので、黙ってご馳走した。

 通常、昼食会は主にアルバイトの女の子の意向に沿った形で披露することになっている。すなわち、カナちゃんがうどんが食べたいと言えばうどんを食べに行き、トンカツが食べたいと言えばトンカツを食べに行くのである。なので、まぁどこの店に行くかは事前にカナちゃんに決めておくように言っておき、ついでに予約をしておいてもらった。
 しかし、ここで私は予想外のトラブルに見舞われることになる。本当は昼食会の一週間前にカナちゃんが「予約しといたからね。」と言った時点で気付くべきだったのだ。「予約」というその言葉の趣に、何か嫌な予感はしていたのだが結局当日、その店に行くまで気がつかなかった。

 そもそも昼食会という名前が気に入らない。たかだか昼飯を食いに行くだけだ。ちょっと奢ってやるだけなのだ、とそう理解していた。いや、おそらく一般人ならば皆そうだと思う。たぶん。

 ところが、当日案内されたところというのがそれはそれはたいそう厳かな香り漂う料亭だったのである。

 「ま、まさかここじゃないですよね…?」

 と、半ば諦め気味にカナちゃんを見る私とニコリと笑いうなずくカナコさま。どう見てもひとり 5000 円はくだらない懐石フルコースを振る舞う店だ。店という言葉を使うことすらはばかられるほど偉そうな店構えである。
 「予約した者ですが。」とカナちゃんが女将(どう見てもそう呼ぶべき)に伝えると、我々3人は奥の趣深い部屋に案内された。どうやらすでに注文は終わっているようである。メニューすらない。せいぜい「天ぷらうどん…1300円」というようなお品書きを想像していた私は、この時点で完全に頭の中真っ白である。(もちろん顔面は蒼白で鼻から血が出かかっていた)

 懐石フルコースはまさに絶品であった。食前酒から始まり、最後の和菓子まで完璧であった。目の前に並ぶ品の上品さといい、一品毎に丁寧な解説つきという贅沢さといい、これで安くすむはずがあろうか。

 否!済むはずがない!!!

 誰がどう安く見積もってもひとり5000円だ。間違いない。絶対そうだ。そうに決まってる。それより安い道理がないのだ。
 それにしてもひとり5000円のコースが3人でしめて15000円。昼飯如きに15000円払う身にもなってもらいたいものだ。だいたいどこのぺーぺー平社員が昼食に後輩やアルバイターの娘にひとり5000円の懐石フルコースをご馳走するというのか。なんて不幸な私。

 予想した額を大幅に超えた昼食会の会費、おまけに得るものは何もない。好きな女の子にならいくらでも奢ろうというものだが、何が悲しくて恋愛感情のない(しかも私になんらかの貢献もしない)娘に、かつ生意気な後輩ごときに5000円の飯を食わせてやらねばならないのか。
 その理不尽さ、神は私に試練を与えているのか、だとすればどうしてこのような種の試練なのか。万年金欠なのは神様も知っているだろうに。

 だが、いつまでもぐずぐずはしていられない。泣く泣くお会計を済ませる私。そして、15000円をすでに財布からとりだし女将に渡す準備をしている私に、ついに運命の金額が提示された。

 14,800円!!!

 OH!ほぼ予想金額どおり、だが若干安い。思ったよりも少し安い。よかった。助かった。救われた!(←何故かそう思わされている)

 通常ならば、総金額「14800円」を15000円とほぼピタリ賞で予想しているのだから、これは間違いなく「ゴチになります!」宣言ができるところである。にもかかわらず、14800円を財布から徴収されなければいけないこの理不尽さと、同時に芽生えた予想よりもわずかに安いことを喜ぶ気持ち。ああ、私はやはり小市民なのだと改めて思ったエピソードである。

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