■◇■ ある理不尽の肖像 ■■■■

 --- すべてのカナコファンに捧ぐ ---

▽ 暗黒より届いた一通のメール 〜ある男と女のメールの語らい〜 その2 :雑文7 を一部改訂 (2000/08/20)

-----

 私はもう一度同じ内容のメールを送らねばならなかった。キーボードに置いた手は先刻からピクリとも動かず、頭の中を様々な文章が飛び交っては、結局文字にできぬまま消えていった。
 額から流れ落ちる汗を拭うと、コーヒーを少し口にした。たかだかお昼ご飯のお誘いを断るメールを書くだけのことだ。しかし、それしきのメールを打ち込むのにすでに30分を要している。そして、それにもかかわらずまだ1行も書けていないのだ。(現実シーン)

-----

 カナコは苦悩する男を思い浮かべては口元を緩めた。彼女には、男の持ち得る財産の全ては自分のものだという自覚があった。それをいただくのは当然のことだ、と。たった一通のメールで、彼女の誘いを断ることは不可能だろうと思われた。彼女がそれを許すはずがない。カナコは届いたメールをもう一度しげしげと眺め、それから視線を窓の外に移した。(私の妄想シーン)

-----

 それにしても2通目のメールを書くのは少々ためらわれた。第一、忙しくて行っている暇はないというのもウソである。それよりもさらに尤もらしく、カナちゃんを納得させるだけの理由を考え出さなければならないのだ。
 ここで負けてしまえば、今回も昼食費としておそらく2,3万円は軽く飛ぶだろう。半年間汗水垂らして働いたご褒美の一部をそんな馬鹿げたことに使うのはいささか不満がある。いささかってゆうかかなり不満である。だいたいそんな筋のとおらないことが世の中にあってはならないと思うし、ましてやそれがカナコのためとなるとなおさらである。

 誤解しないように何度も説明するが、カナちゃんは決してブサイクではない。はっきり言って美人の部類だ。頭は悪いが、それを補うスタイルと美貌がある。しかし、だからと言って私のボーナスを彼女に貢いでも良いかというと、そんなことはないのだ。
 何故なら、カナコと実際に話をすればわかると思うが、泣きそうなほどに腹が立つのである。ほんの二言三言の会話でおそらく普通の女性との違いをわかってもらえると思う。言ってみれば、鈴木その子とガングロ女子高生の肌の色くらいの違いである。
 ちなみに美人とは言ったモノの、私の好みとはかけ離れているため、腹立つのを我慢してまで一緒に歩きたいということもない。モノにしてやろう、というつもりもさらさらない。まっぴらごめんである。だからどうした、と言われることを辞さない覚悟で言わせてもらうが、私はいわゆる美人はあまり好きでなく、むしろかわいいタイプの娘が好みなのである。

 さて、私は結局次のようなメールを出すことにした。ひねることを諦めて、真面目に書いてみた。これで緊迫感がだせるはずである。あくまで本当は行きたいんだけど、今はちょっと忙しくて無理です。という内容である。実に巧妙にそしてソフトに、メール職人の本領発揮である。

>カナコさんへ
>
>ゴンタくん元気そうでなによりです。(笑)
>えっと、昼食会の件ですが、ホントに忙しくて
>なかなか都合が合わないと思います。
>日曜日ならなんとかなりそうなんですが平日はとても無理です。
>そんなわけなので、やっぱり次回にしましょうか?

 ポイントは4行目「日曜日なら〜」のくだりである。これでは隙を与えているように思われるだろうか。否、実はカナちゃんのウィークポイントを狙っているのだ。カナちゃんは極めて我が侭なので、自分の自由時間を奪われるのを極力嫌うのである。つまり、平日であっても勤務時間終了後に夕食でも一緒に、ということはないし、ましてや休日などカナちゃんが良いと言うはずがないのだ。
 あくまで自分の都合の良い時間帯でおごれ、というカナちゃんであるため、これを逆手にとろうという作戦なのだ。これならばむしろカナちゃんの方から今回は仕方ないわね、と折れること間違いなしの作戦だ。いける、今度こそいける。ボーナスはすべて我が手に収まるのだ。それこそ本来あるべき姿なのだから。

<< その3につづく >>

Library. ▽ Top. ▽ Back. ▽ Next.


Entertained by Teshi.