--- すべてのカナコファンに捧ぐ ---
▽ 暗黒より届いた一通のメール 〜ある男と女のメールの語らい〜 番外編 :雑文7 を一部改訂 (2000/08/20)
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狂っている。何かが狂っている。男がそれに気付かぬはずがない。罠と知りながらも女の無尽蔵な要求を拒まぬにはわけがあった。代償ではない。ただひっそりと蜘蛛の巣から逃れるチャンスをうかがっているのだ。男の願いはただひとつ。女の張り巡らす巣から離れ、自由を得ることだった。
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彼女はその日、真っ黒なスーツを身に纏っていた。タイトなミニスカートから伸びる細くしなやかな脚が眩しい。長い髪が初夏の風に弄ばれるのを押さえながら、女はサングラスを少しずらして、道路脇に停まっている車の男に視線を送ると、その助手席に乗り込んだ。
「ファンデーションは使ってません」かどうかは知る由もないが、真っ白なその肌は男を誘惑するには十分なように思えた。男は終始沈黙を保っていたが、彼の心中を察するのはそれほど難しくない。それほどの女だった。
「できることなら、この女を乗せずにそのまま家に帰りたい。」
男は心底そう思っていた。賢明である。その女に関われば、散財と屈辱の連続であるからだ。一刻も早く(できることならば今すぐにでも)その女から離れるべきだ。さもなければ行き着く先はひとつ。
財政崩壊である。
「今日はどこに行こうかな?」
女は薄いピンクのルージュを引いた唇を動かした。-----どこに行こうかな…。まったくしらじらしい女だ。最初から行くところなど決まっているくせに-----男はそう思ったが、それはおくびにも出さずに「どこへ行きたい?」と切り返した。
無論、女の頭にはどこへ行くかなどという予定は当たり前のように入っていた。それどころかすでに根回しもしてある。もう昼の12時をまわったところだが、今から行っても十分に間に合うだろう。
以降、女の指示通りに男は車を走らせた。なすがままである。まるでそれに逆らうのが憚られるかのように、男は黙って車を走らせた。男は女がどこへ行こうとしているのか皆目わからなかった。いつものことではあったが、事前に幾ばくかの情報すら与えられずに、ただ男は走らされた。女が求めていたもの、それは男の財布だけであったのだ。
「カナコさ〜ん、昼から会議だから今日はそんな遠く行けませんよ。マジで。」
「だって、もう予約しちゃったんだもん。」
「もっと近くの店にすりゃいいじゃないですかぁ。」
「文句言うなら自分で予約すればよかったでしょ!!」
(!?自分で予約するって言ったくせに…)
「だいたいねー、昼から会議あるんだったら別の日にすればよかったじゃないの。」
(!!??つーか、最初からダメだって言ったじゃんかよぅ…)
「今日は絶対たくさん食べるからね。」
(…いつもたくさん食うくせに…)
「はい、そこ右ね。」
「はいはいはいはい。」
男は諦めたようにハンドルを右にきった。
<< おわり >>
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