■◇■ ある理不尽の肖像 ■■■■

 --- すべてのカナコファンに捧ぐ ---

▽ 映画に行こう:(2002/08/07)

 近頃カナコの話が出ないのが残念だとのご意見をいただくことが多い。思うにみなさんはカナコをアイドルかなにかと勘違いしているのではないだろうか。そもそも僕がこの「ある理不尽の肖像」を書いたきっかけは、男性にはカナコのような娘に捕まるな、そして女性にはカナコのようにはなるな、とそういうメッセージを込めてはじめたものである。にもかかわらず僕の文章がマズイのか、世の中には物好きな人がたくさんいるのかは定かでないが、前述したようなカナコに好意的なメッセージがアトをたたない。まったくもって遺憾である。
 それはさておき、この頃とんとカナコの方から連絡がないのでこれはいよいよ僕「で」遊ぶのを飽きてくれたかと喜んでいたら、先日このクソ暑いさなか暇ならすぐに出て来いとの内容の手紙が伝書鳩の足にくくりつけられて送られてきた。僕が仕方なく電話をかけると、なにやらひどく婉曲された表現で「映画を見に行かないか?」というようなことを言われた。
 「あーアタシちょっと見たい映画があるんだけど。」
 「へーそうなんですか。すごいですねぇ。それではまた。」
 「ちょっとちょっとぉ。フツー女の子がそう言ったら”どんな映画ぁ?”とか”じゃいっしょに行こうか?”とか言うもんでしょー。」
 「あ、そういうもんなんですか。でも僕(オマエとは)映画みたくないし。それではそういうことで。」
 「ちょっと待ちなさいっ!」
 「……。なんなんですかぁいったい。僕いまちょっと忙しいんですよ。」
 「またそうやって見栄はってぇ。どうせ暇なくせに。」
 「…。」
 「でね、なにが見たいと思う?」
 「……し、知りませんよぅ。」
 「メインブラック2って映画なんだけどぉ、昨日から始まったのよね。」
 「あーそうですね。名古屋駅んとこでやってますよ。というわけでそろそろ電話きりますね。それでは。」
 「だから待ちなさいっていってるでしょ!!!!!」
 「はい……。」
 「で、どうせてしくん暇そうだから連れていってあげようと思って。」
 「……。なるほど、それは気を使っていただきましてスイマセン。でも僕平気ですからどうぞカナコさんひとりで行って来てください。」
 「いっしょに来なさいっていってんの。」
 「…。いっしょに行きたいんなら最初から素直にそう言えばいいのに…(ボソッ)」
 「なにか言ったぁ?」
 「い、いえ…。じゃ行きますよ、今から。で、どうします?15:10からにします?余裕見て。」
 「んーでもね、その前にやることがあるの。」
 「……。あーもうなんなんですか。」
 「アタシMIBの最初のヤツ見てないのね。で、とりあえずMIBのビデオ借りてきてよ。それ見てからじゃないと2見てもおもしろくないでしょ?」
 「あ、あの…。俺MIB見たんですけど……。」
 「そういう問題じゃないのっ!」

 と、おおむねこんなやりとりだったように記憶している。MIB2と言えばこの夏の話題作であるから映画通でとおっているこの僕も見てみたいと思っていた作品だ。だからせっかくの機会なのでカナコと見に行くこともやぶさかでない。(入場料を誰が払うのかという問題はさておき)しかしながら、ヤツのワガママでその1作目までビデオで見るのはどうしたものか。しかもそれを僕に借りて来いと暗に示すその横暴ぶりは、以前とまるでかわらない。まるで女王だ。自らの欲望を達成するためには部下の死すら厭わない凶悪な女王だ。これでは僕の暇がいくらあっても足らないではないか。
 これは最近思うことなのだが、カナコはすでに僕のことを手中に収めている奴隷くらいに認識しているのではないか。考えてみれば僕は見えない鎖につながれているような錯覚すら感じることがある。或いは「気」のようなものでしばられているのかもしれない。まるでラオウの闘気に気圧された雑魚のように足がすくんでしまい、どうしてもカナコの言葉に抗うことができずついつい最終的には僕が折れてしまうのだ。それでいつのまにかこれを読んでいるみなさんの中にもカナコはヒロインで、僕はその従者のようなイメージがついてしまっているのではないだろうかと思う。
 しかしよく考えて欲しい。カナコはしょせんネタである。こういうひとはヤヴァイですよ、というサンプルにしか過ぎない。言ってみれば河の堤防に立ててある「よいこはここで泳がない」といういかにもな看板に溺れて泣いているところを描かれているチビッコのようなものだ。しょせんはみなさんのイメージを膨らませるためにつくられたキャラである。それが偶然にも実在したというだけの話なのだ。ただ唯一問題なのは、そのイタイお姉さまキャラの筆頭とも言えるカナコが僕の身近にいて、常にその危険に身を晒されているのは僕だという点である。これだけはイカンともしがたく、今のところ僕はその危険から逃れる術をまだ見つけられずにいる。人間とガン細胞のようなものだろうか。
 ともかく僕はいつも悪性腫瘍に悩まされているのだ。これはなんとか打破するためにも僕はこの悪事を公表するという運動を続けていかねばならぬと改めて思っている。せめてみなさんにはカナコじゃなくてむしろ僕の味方につくようお願いする次第である。

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