■◇■ ある理不尽の肖像 ■■■■

 --- すべてのカナコファンに捧ぐ ---

▽ 寒気と換気:(2004/11/15)

 その日、彼女は何故か苛立っていた。
 いや、苛立っているのは常だから、苛立っている以上に苛立っていたと言わねばなるまい。僕が出勤してから10分後に現れた彼女は、朝の開口一番から、彼女の机に1mm程度はみ出していた僕の書類にケチをつけ、僕は机の上を片づけざるを得ない状況に追い込まれた。驚くべき事に、さらに彼女は、寒いのが苦手なこの僕に対して、せっかく暖まり始めている部屋を「窓&ドア全開」するという嫌がらせをし始めたのだ。
 時は12月。もはや冬将軍が暴れ回っている時分のことである。

 「ちょっとカナコさん。寒いんですけど。」
 「若いのになに言ってんの。部屋の空気が悪いから入れ替えしなきゃダメよ。」
 「暖房入れて10分くらいしかたってませんよぅ。せっかく暖まりかけてきたのに…」
 「このぐらいの寒さで、寒いなんて言ってたらこれからどうするの!」
 「…いやこれからも普通に暖房いれて、窓全開とかしなきゃ大丈夫ですけど…。」
 「だいたい女の子のあたしが平気だって言ってるのに、男の子がそんな寒がってばっかりで情けないでしょ。」
 「男とか女とか関係ないですよね…。」(ボソッ)
 「なに?」
 「いえ、別に…。」
 「じゃ文句言わないの。」
 「…ぇぇ。でもはやく締めて下さいよ。」
 「こういうのは10分ぐらいはしないと意味ないの!」
 (でもアナタ。それ、暖房いれてた時間と1:1ですからっ)
 「とにかく10分間空気入れ替えします。」(ありえません。凍死します。)
 「10分もですか……」
 「当たり前です。」(そうなの?)
 「…カナコさんは今来たとこですから、歩き回ってて体あったまってるかもしんないですけどねぇ…。」
 「いい加減にしないとおこるよ。」(もぅ怒ってますよね…)
 「…すいません。。」

 こうして彼女は僕に嫌がらせを始めた。雪がいつ降ってもおかしくないほどの寒さに僕は少し身を縮めた。そして彼女はそのままプンスカ言いながら、隣室へと出て行った。

 つーか、オマエ!!隣の部屋、暖房ついてんじゃん!!

 いてつく波動がほとばしるこちらの部屋に対し、隣の部屋は常夏。自分だけ換気中はその部屋で過ごそうという魂胆である。僕は急ぎの仕事があって、デスクを離れることができないため、その辱めを体いっぱいに感じながら仕事にいそしむほかない。この屈辱いつかその体ではらさせてやる、と両の拳を固く握りしめながら誓う僕であった。
 ご存じのとおり、僕は寒いのが三度の飯より嫌いである。寒ければ寒いほどに、気力は失せ、その寒さに怒りすら覚えるほどだ。ましてや、人工的な寒さなどもってのほか。僕は、極限の怒りに我を忘れ、カナコがいなくなって30秒後に全開されたドアと窓たちを次々と閉めていった。後でどんなことになるかを予想しながらも、もはやその行為をとめることができなかったのだ。

 そして僕は、カナコが帰ってくると予想される直前にこっそりと席をたち、とりあえずの避難を試みるのであった。

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