■◇■ ある理不尽の肖像 ■■■■

 --- すべてのカナコファンに捧ぐ ---

▽ 電話に出るのはアナタ:(2004/12/14)

 今にして思えば、当時の職場のひとたちはホントに電話に出ないひとたちばかりだった。僕はまだ新人だったから当然その最前線に立たされて、いくら僕が手が離せない状況だったとしても、その時カナコがどれほど暇そうにしてたとしても、電話を受けるのは僕であった。

 「てしくん、電話鳴ってるよ。」
 「…はい。。」

 (電話中)

 「…カナコさん。。俺に電話鳴ってるって言ってる暇あるなら、出てくれればいいじゃないですか…。」
 「電話は新人の仕事でしょう。」
 「いやそうかもしんないですけど、俺今手が離せないんですよ。マジで。」
 「女の子は電話番とお茶出しだけしてればいいってこと?」
 「…そんな極論、誰も言ってませんよぅ。」
 「アタシが入ったときなんて、もうホントにたいへんだったのよ。忙しくても誰も電話に出てくれないし、仕方なくアタシが電話とってたんだから。」
 「…歴史を繰り返すつもりですか…」
 「勉強になるからいいじゃない。」

 というような議論が繰り返されるだけで、なんら解決しない毎日であった。そんな日々に「仏のてしさん」の異名を持つ僕もさすがにドタマに来て、ある日僕は意地でも電話にでないという強攻策をとってみた。
 誰もとらない電話が部屋中に鳴り響いても、そこで仕方なく電話に手を伸ばすのではなく、じっと我慢をするのである。そうすればさすがに誰か(というかカナコがターゲット)電話に出るだろう、と。そして、それが慣習化すれば僕の忙しい日々も若干ではあるが解消されるのではないか、と。

 trururururururu

 torururururururururrururu

 トゥルルルルルルルルルルッル

 (そのまま20秒)

 ブチッ。

 ありえません。マジありえません。
 ホントに切れるまで無視し続けるカナコ(あ、俺もだ)とその同僚たち。その直後再び電話が鳴り響き、僕は無視できずに結局電話を取る羽目になったのだが、これではまったく意味がないことに気づく僕。だが、そうは言っても誰もとらないのだから、仕方がない。だいいち、カナコ以下他の方々は、電話は僕がとるものだという認識であり、それで誰もとらなければ悪いのは僕という図式がなりたっている。その証拠に一発目の電話をとらなかった僕にカナコは散々小言をたれた。

 「ちゃんと電話とらなきゃダメでしょー。若いうちからさぼってるとあとから痛い目にあうよ。」

 つーか、アンタ、今も痛い目にあってないだろ!!!

 仕方なく謝る僕と、お姉様ぶって有頂天になるカナコ。この力関係だけはいかんともしがたいものか、と当時の僕は絶望感に浸った記憶がある。
 しかし、カナコと部署が離れた今、このような過去の経験が僕の血となり肉となっていることは間違いない。どんな状況下でも電話に瞬時に反応できる技術を身にすることができたのだ。今もなお自分が電話をとらなければならない立場であるというショボさを棚にあげれば、その技術の習得に関して感謝してもよいほどである。しないけど。

 そんなわけでたまに僕がカナコのいる席に電話をすると、決まって新人の女の子が出る次第である。

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