▽ 雑 文 

#021 正義のヒーローミラクルマン。 1999/7/7(2001/8/18改訂)

 彼の名は富永おかず。しかし、おかずとは世を忍ぶ仮の姿。彼こそは地球の平和を日夜守り続ける正義のヒーロー、ミラクルマンなのだ。
 おかずは迷っていた。彼の手には今、500円が握られている。給料日まであと2日。今この500円が彼に与えられた最後の希望。ひと思いに500円で牛丼大盛りを食べてしまい、給料日までなるべく腹を減らさないように家でじっとしているか、それとも250円ずつ均等に2日間に分けて使うべきか。先刻からコンビニの前で2時間ほどうろうろしているのである。たんなるあやしいおやぢだ。

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 その頃、町田智美は残業を終えて家へ帰る途中であった。いつもよりも随分と遅い時刻だ。智美は近道をして帰ろうと思いたち 別の方向へ足を向けた。あの不気味な公園前を横切らなければならないが仕方がない。走って通り抜ければきっと大丈夫だ。 自分に言い聞かせながら、やや駆け足気味で公園の前を通ろうとしたその時智美の前にあやしげな男が立ちはだかった。お約束のようにストッキングをかぶったくろずくめのおやぢ。ここでは便宜的にストッキングマン(仮称)と名付けよう。
 そのストッキングマン(仮称)は、いきなり智美に襲いかかった。
 「とおっ!」
 智美の上に覆いかぶさり、服に手をかけた。智美は必死で抵抗を示したがストッキングマンの腕力にはかなわない。2人はもみ合いながらその場にどさっと崩れた。
 「助けてーーー!ポパーーイ!!」
 大声をあげる智美。しかしその声はむなしくあたりに響くだけであった。

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 ミラクルマンこと富永おかずは、何故か胸騒ぎがしていた。なにか悪いことが起こるときの前兆のようなものだ。生まれながらにしてヒーローの資質をもった彼だからこそわかるその胸騒ぎはだんだんと強くなっていった。
 変身だ!こんな時は変身して神経を研ぎ澄ますのだ!!
 「ミーラークール!!」
 富永おかずは、左の腕についた特性のミラクルウォッチのスイッチを入れる。ミラクルウォッチから、7色の光がほとばしり、彼の体を包み込む。ミラクルウォッチはそのスイッチをいれることによって、大気に含まれるさまざまな成分を集め可視光線すなわちレインボーシャワーに変換するのだ。そしてレインボーシャワーをあびた富永おかずはわずか1000分の1秒でミラクルマンに変身するのである!

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 町田智美は後悔していた。少し遅くなってもいつもの道を通るべきだったのだ。ほんの少しの手間を惜しんで、近道をしたばかりにこんな目にあってしまうなんて!智美はストッキングマンの両腕で体を押さえられながら、なんとか脱出しようと試みたがやがて抗う気力すら失ってきた。

 その時である!!
 あきらめかけ、ふと天を仰いだその瞬間、ドカっというおおきな音と共にストッキングマンの体が智美の前から消え去った。そして、その大きな体が目の前から消え去ったその向こうに白いスーツに身を包み、一輪の赤いバラを口にした男が現れた。
 「大丈夫かい?」
 「あ・・・、あなたは・・・?」
 「私の名はホワイトスーツマン。悪を憎み、弱気を守る正義の使者。」
 ホワイトスーツマンの一蹴りによって悪のストッキングマンは、一撃で伸びてしまったようだ。ホワイトスーツマンはやさしく智美を抱き起こすと、その露わになった上半身を覆うように自らのホワイトスーツを智美に着せた。かくして、ホワイトスーツマンの正義の刃によって、町田智美はその危機を乗り切ったのだった。
 ありがとう!ホワイトスーツマン!僕らのヒーロー!ホワイトスーツマン!

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 その頃変身を完了したミラクルマンこと富永おかずは、嫌な予感はそっちのけで、ついに自分がとるべき行動を決めていた。
 「ミーラークール、チョイーーーース!!」
 ミラクルマンはその卓越した選択能力によって今どちらが自分にとって都合がいいのか、判断できるのだった。
 ええい!牛丼だ!大盛りだ!!あとは野となれ山となれだ。それよりも今、この空腹を満たすことの方が先決だぜ。牛丼に決定!!
 やっぱりミラクルマンに変身しないと、決められないぜ。こーゆームズカシイ選択は。

 こうして、地球の平和は続いていくのだった・・・。

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