▽ 雑 文 

#030 できちゃった。 2000.1.25 (2004/10/1 改訂)

 先日、10月に結婚したばかりの友人ご夫妻がうちへ来た。実は、結婚のお祝いをずっとあげてなくてこれでは仁義にかけるからとボーナスをもらってまず彼らにお祝いをしてあげることにしていたので、そのお祝いをとりに来させたのである。

 来させたというと非常にエラソーで慇懃無礼であるが、これはたんに彼らが所用でうちの近くへ来たのでそのついでに寄らせただけの話だ。ああ、それもエラソーだ。

 新婚生活はどうやら上々のようで、幸せ満面のおふたりの笑顔には小生まいっちんぐ状態であったが、まぁ友人の幸せヅラを拝むのはやぶさかではないわけで、それなりに嬉しいものなのである。

 しかし今回、喜びはそれだけに留まらなかった。なんとベイビーができたそうなのである。これはなんとも2重の喜びである。が、よくよく考えてみると、その友人のコピー顔の赤ちゃんができあがると思うと、いくらか心配は残る。赤ちゃんの容姿がひどく心配なのである。奥さんはめちゃめちゃ美人で素敵な方なのだが、旦那方はナニブン小生の友人であるのでその遺伝子内には大した遺伝情報など記録されていないに違いない。

 そのくせそいつの遺伝子は強力な影響力をもっていそうなので、これはもう確実に旦那の凡才な遺伝情報が92%くらい受け継がれるはずだ。それを思うとベイビーくんはあわれに思えてしまい、小生などはすでにこの時点でかなりの同情をしている。

 まぁ、それはともかくとして、ふたりの家庭に新たな一員ができるということは果てしなく幸せなことであり、同時にこれらの幸せは、彼らの日々努力の所産なのである。

 そんなことがあったせいか、その晩、小生に子どもができる夢を見た。結婚さえもしていないにもかかわらずである。いや、結婚なんてしてなくったって子どもはできるのだが、まぁそれはそれ…ゴニョゴニョゴニョ。

 当然相手も未婚の女性で、夢は例の「できちゃったみたい。」の一言からスタートした。

 「できちゃったみたい。」
 「できちゃった…?何が?」

 「何が」と言うのも後で思えばこんな非道いセリフはないわけだが、とにかく小生の第1声はそれだった。と、いうのも実生活でも夢の中でもホントに身に覚えがないのである。それはそれである意味悲しい話ではあるが…ゴニョゴニョゴニョ。

 「あなたの赤ちゃん。」
 「赤ちゃん??俺の???なんで、また?」

 何でまたっていうかそういう問題でもないと思う。そん時はもう冷や汗ダラダラでそれどころではなかったが、とにかくそんなコトを言っていた。もちろん後で考えてみると赤ちゃんなどできるはずがないので、やっぱり所詮夢だな。リアリティがなさすぎだよ。と2流映画を嘲笑する感じなのである。てゆうかその前にその女性、見覚えは確かにあるのだが、誰なのかどうしても思い出せないような人だったので、当然子どもができちゃうようなマネなどするはずがないということに気付くべきだった。

 とにかく赤ちゃんができた。これは由々しき問題で現実ならばこの後に様々なめんどうな儀式が山積みになるが、さすがは夢である。そんなものは勝手にカットされて都合がいいように話は進んでいく。

 気が付くと小生の息子はいつの間にか生まれていて、もう何ヶ月かたっていた。顔をのぞき込むとこれがまたブサイク。絵にも描けないブサイク。赤ちゃんって猿みたぁい。とかそういうレベルの顔ではない。間違いなく小生の顔のコピーである。

 さて、そうなるともはや言い逃れはできない。身に覚えがあろうが無かろうが夢の中の世界ではその時点で何故か自分の子どもと認めてしまったのである。

 すると当然の如く、小生はその赤子を抱いて乳をやったり父をやったりタイヘンであった。夢とはいえ、妙な気分である。

 父親の仕事というのは、本当はどんなことなのか小生にはまだよくわからないが、見よう見まねで夢の中の父はなんとかやっていた。不思議なことに容姿はひどい息子だったが、やはり自分の子となるとかわいいものであった。オギャアと鳴けばよしよしと抱き上げてやり、エヘヘと笑えばその笑顔がまたたまらなく可愛いので思わず顔がにやけ、と普通の父親を演じきっていたつもりであった。

 しかしそれと責任問題は別の問題のようである。子どもは可愛いが、やはり責任はとりたくないらしくそれから逃れようと考え始めたのである。

 赤ちゃんができた。→結婚せねばならない。→身に覚えもない女性とはやっぱ嫌。→責任とりたくない。→でも赤ちゃんできた。→結婚せねばならない。

 と、何周か無限ループを回転したあげく、悲鳴のような声をあげながら小生あちこちを逃げまどい、結局ノウミソがパンクしたのかどうかはわからないがそれ以上のオチもなく、そこで目が覚めた。

 いやはやできちゃった疑似体験はなかなかに目覚めが悪かった。何がいちばん気に入らないかというと赤ちゃんの顔ははっきり記憶に残っているのに、奥さんの顔がてんで記憶にない点である。ひょっとしたらホンモノの未来の奥さんが夢に出ていたという、いわゆる予知夢だったとしたら、奥さんの顔を忘れてしまったというのはかなりの失敗である。肝心要の部分を度忘れしたのではせっかく冷や汗をかいてまでみた夢の意味がないではないか。

 しかし、この未来の奥さんの顔、後日ふと何かのきっかけで思い出した。思い出してみればつまらないオチで、すなわち奥さんの顔も小生の顔のコピーだったというオチであった。

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