▽ 雑 文 

#031 駐車場によくある風景。 2000/2/1 (2004/10/1 改訂)

 ミョーな光景に出会った。車椅子が一台(←台っていう数え方でいいんでしょか。)駐車場にポツリと置いてある。誰かが乗り捨てたモノだろうか。いや、乗り捨てるようなものでもないはずだ。ではなぜあんなところに一台だけ置いてあるんだ。

 そこは、とある電化製品のディスカウントショップの駐車場。よく晴れた日曜の昼下がりということもあって、駐車場はほぼ満車状態だ。僕と友人は、駐車スペースを探しながらRV車でぐるりと駐車場内を一周して、ようやく空いた場所に駐車することができた。

 両親を連れた小さな男の子が買ってもらったばかりのゲーム機の箱を抱いて、店から出てくるのが見える。少しだけはしゃぎながら、それでいて抱えた箱を落とさぬように気を使いながら歩く男の子を目を細めて見つめていた男性(おそらくはお父さんだろう。)の笑顔がやけに印象に残った。

 僕と友人がそこへ行ったのは、パソコンを買うためだった。友人がパソコンを買いたいと言うので、そのための予備知識をいくらか補助しようと僕が付き合ったのだ。何も知識のない者がひとりで選ぶよりも、少しでも目利きのある僕がパソコンを選ぶのを手伝った方がよりいいものを買うことができるという寸法だ。

 他人の買い物とは言え、僕とて好きなコンピュータ類を見て回るのはやぶさかでない。少なくとも初めてパソコンを買う友人が後で後悔するようなことにだけはさせたくなかった。サポートするからには友人の喜ぶ顔を見たいというもので、さしずめ、ゲーム機を買ってもった男の子が友人で、男の子のお父さんが僕というワケだ。

 さて、車椅子だ。車から降りると目の前に車椅子が一台置いてあった。いや、停まっていたと言った方がたぶん正解だ。店の入り口からもっとも近い駐車スペースにちょこんとかわいらしく停まっている車椅子。友人が訝しげにそれを見ながら僕に話しかけた。

 「なんであんなとこに停まってンのかな?」

 知りたいのはやまやまだが、僕もさっぱりわからない。車椅子で来ているというのはそれ相応の障害を背負っているということに他ならない。にもかかわらず何故に車椅子から降りてしまったのだろうか。友人は眉間にしわを寄せながら怪訝そうな顔をさらに歪めた。

 ふと見ると、その駐車スペースには車椅子の絵が描いてある。車椅子のひとを載せた車が車椅子の人を乗降車させるスペースなのだ。なのに何故車椅子が停めて…。瞬間、僕の頭の中でみるみるうちに謎が氷解していった。なるほど、ここを車椅子の駐車スペースだと勘違いしたのか。きっとこの車椅子マークがあるところに車椅子を駐車して店の中に入っていったに違いない。

 駐輪場、駐車場ならぬ「駐車椅子場」である。確かにそうとれなくもない。ある意味正しい解釈である。なるほどな、と友人も頷いた。そしてこう漏らした。

 「じゃ、何か。車椅子の人がたくさん来ると、ここに何十台も車椅子が並ぶのか?」

 店の前に自転車が並べられているのと同様に駐車場の一部に車椅子がずらりと並ぶ光景。あげく駐車違反の車椅子たちが取り締まられているマヌケな映像が僕の脳裏に浮かんで、僕は思わずぷっと吹き出した。

 よく晴れた日曜日の午後のことである。

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