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第23回 コラム:来たるべき世紀


 19世紀末、20世紀は希望、進歩の世紀と位置付けられていた。産業革命による経済の拡大、科学技術の進歩、様々な発明、人間の力は無限だ、人間には輝かしい未来がある、そういう幻想を抱かせた。実際19世紀、ヨーロッパでは疫病が蔓延したり、戦争も絶えなかった。20世紀はそういったことが解決しているであろうという希望があったのだろう。そして、1901年1月1日、20世紀の象徴となってしまうアメリカ合衆国ニューヨーク・ロックフェラーセンターにはエジソンの発明した電球で飾られた「Welcome to 20th Century」の文字。キーワードは"Progress"(進歩)。そうやって20世紀は幕を開けた。

 果たして20世紀はそういう人々の希望にかなった時代だったろうか。

 科学技術の進歩により、国々の時間的距離は縮まったこともあって、爆発的に拡大した経済は、アメリカ合衆国を中心とした欲望の塊となって突き進み、それはとどまることを知らず、機関投資家を生みだし、そのマネーゲームの餌食とされ経済が破綻した国は跡を絶たず、責任を持たない機関投資家は次のターゲットを、次の儲け話が転がっているところに邁進する。

 国々の時間的距離が縮まったことにより、せめて1国対1国の戦争だったものが、20世紀前半だけでヨーロッパ、アジア、アメリカを巻き込んだ2度の世界大戦を招いた。しかしそれで人間の欲望に直結する戦争は終結することはなく、地域間紛争に大国が介入する時代を迎え、戦争といえば泥沼化してしまうものとなった(朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争他)。第2次世界大戦に引導を渡した核兵器は、それが持つ圧倒的な破壊力故に所有することが大国の象徴とされ、その拡散は抑止が効かない。核兵器は一度所有してしまうと、なかなか禁煙できない人のように自ら手放すことはできない。"核の抑止力"という架空の力が薄らぐようになると民族間、地域間紛争は多発の一途を辿るようになり、収まることはない。内戦、部族間紛争はもはや"日常"だ。

 科学技術の進歩により克服した疫病もあるが、次から次へと新しいウィルスが人間を襲う。抗生物質という人類の英知の結晶で一旦克服したかに見えたウィルスが、その抗生物質に耐性をもって進化する。人間の研究のスピードよりもウィルスの進化のスピードの方がはるかに速い。

 人間が求める物質的な豊かさは地球全体に歪みをもたらすようになった。降り注ぐ紫外線から人間を守るオゾン層を自らの手で破壊したり、大量生産大量消費の果てに汚染物質によって不毛の地を作り出してしまっている。工場などから大量に吐き出される二酸化炭素によって地球の平均気温は上昇し、極地の氷が溶け出すことにより深刻な海面上昇による国土消失という不安を抱える国があり、氷が溶け出すことにより海水の塩分濃度が下がる結果深層海流を弱める形となり、気候を安定化させることができなくなることが予想されている。また、それまで無害とされてきた化学物質が、内分泌撹乱物質(環境ホルモン)であることが発見され、地球規模でその汚染に苦しみ出している。

 経済が豊かになった証しである豊かな食生活(肉食)を支えるために過剰なまでの穀物生産が、一方で極端な飢餓を生む(総穀物生産料19億トンのうち4億トンが食用、残りは肉食を支える飼料となる。牛が1kg太るのに約8kgの穀物を必要とする。一部の豊かな国が5%肉食を控えれば(先進諸国約4億人程度)、深刻な飢餓に苦しむ諸国(約8億人)の食糧問題は解決する。穀物だけに関して言えば、地球上の全人口約58億人を養える計算となる)。この市場主義に基づいた行き過ぎた穀物生産は、市場において価値がある作物だけを作ることになり、この単作が農地を風食させ、全く作物が育たない痩せた土地を作り出していく(このため、カザフスタンは全農地の3分の1を失った)。穀物の過剰生産を支えるために大量に地下水をくみ上げた結果、地下水位の極端な低下、ウォーターロギング(湛水:排水能力をはるかに超える水を与え続けた結果、地下水が飽和状態に達してしまうこと)、塩類集積(排水の結果上昇した地下水位が地表に塩分を含んだ水を残し、水分だけ蒸発してしまった結果)を引き起こすことになった。当然これらの現象が起きればその土地は農地ではなくなる。物質的に豊かになって肉食を続ける限り、食糧危機は免れない。これまで社会科の教科書で教えられてきた人口増加により食糧危機が起こるのではなく、一部の豊かな人間たちの肉食のために食糧危機がおきてしまうのだ。

 自国の経済成長の中で疾走する欲望の塊(アメリカ合衆国)に屈した国がある。日本だ。アメリカ合衆国の商社、外食産業の戦略に見事に引っかかり、日本は「豊か=肉食」と思いこむようになり、その肉食を支えるために、消費される穀物のほとんど全てと言っていいほどアメリカ合衆国からの輸入に頼っている。日本の食糧自給率は41%(これだけでも世界最低水準)。これは主食である「コメ」(自給率99%)も含んだ数字だ。大豆、小麦、とうもろこし等他の穀物の自給率は10%にも満たない。人間としての根幹である「食」を、食べ物をアメリカ合衆国に握られている以上、No.と言えないのだ。言ったとたん、穀物の対日輸出は停止され、日本は飢える。それを知っているため(そうなるように戦略的にかの国の商社、政府は仕向けたため)アメリカ合衆国は穀物を政治に利用する(アメリカ合衆国は次のターゲット、13億の人口を抱え驚異的な経済成長を遂げている大国、中国を狙っている。が、現在の全世界の穀物生産量でこの13億の肉食を支えられるか誰にもわからない)。

 20世紀は確かに科学技術の"進歩"の世紀であった。その科学技術のために驚異的な食糧(穀物)生産を可能とした。しかしながら、それは豊かさ(肉食)を求める欲望の結果であり、20世紀が終わろうとしている今、人類に対しその諸刃を突きつけている。物質的な豊かさが次の欲望を生み、何かしらの欲望が満たされてもまた次の欲望を生み出していく。そう、それはこの20世紀は欲望の世紀だったと言っても過言ではないだろう。そしてその欲望を支えることに限界が近づいている。しかし、人類はその欲望によって疾走し続ける足を止めない、いや止められない。一度知った欲望の味は忘れられないのだ。たとえそれが破滅への階段であったとしても。

 19世紀末に20世紀に対して人類が夢見た明るい世界を、楽観的な希望を、20世紀に生きる我々は環境面、食糧面から見れば21世紀に見ることはできない。しかし、その艱難辛苦の道を人類は自らの足で歩いていかなければならない。なぜならば、自らの未来は自らで切り開いていかなければいけないのだ。それが"Progress"なのだから。

(1999. 2. 7.)

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今回参考にさせていただいたもの

  • NHKスペシャル「海」 1998年放送
  • NHKスペシャル「世紀を越えて」 1999年1月より放送開始
  • 《Galaxy Textpress》 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/4176/euc.htm

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