フィリピン海プレートテクトニクス 非公開 2019/08

1. はじめに
 地球表面は,厚さ約100Kmの硬い板状の十数枚のプレートによって覆われている.プレートは,アセノスフェアから上昇してきたマグマが海嶺に於ける火山活動で誕生し,地球表層を移動して,海溝で沈み込んでアセノスフェアへ帰る.こうした運動はプレートテクトニクスといわれている.プレートテクトニクスは地球表層部に起るさまざまな現象を理解するのに必要な理論である.

2. フィリピン海プレートの考察
 プレートが沈み込むスラブには,プレートが曲がり,割れ目が生ずるので,微小地震が発生する.石田(1988)は,図1の AB地域の深さ200Kmまでに,1980年1月1日から1988年3月21日の間に発生した微小地震の震源を調べた.その結果を伊豆半島北部の東西方向400Kmの鉛直断面図へ震源を投影した震源分布図を作成した.図1はその震源分布図を参考にして作成した模式図である.筆者は,石田の震源分布図を,フィリピン海プレートテクトニクスを考える基本とした.
 図1から, PHS SLAB は,フィリピン海プレートで,厚さが30〜40kmある.PAC SLAB(太平洋プレート)は急傾斜でPHS SLABの下へ沈み込んでいる様子が分かる.このときPHS SLABに加わる力は,鉛直下方の成分が大きく,PHS SLABを鉛直下方へ引張り込んでいる.図1から,伊豆半島北部周辺は引張りの場となっていることが分かる.
 PHS SLABのB方向への運動とPAC SLABのA方向への運動を比較すると,PAC SLABの運動が大きいので,フィリピン海プレートは相対的にA方向(北西方向)へ運動していることになる.

 
図1. 石田(1988)の地震の震源分布図から推測した伊豆半島北部のプレートテクトニクス模式図.
 黒点は微小地震の震源,矢印はプレートやアセノスフェアの動きを示す.

 伊豆半島から南へ延びる伊豆・小笠原・マリアナ火山弧(伊豆マリアナ火山弧)は,太平洋プレートの沈み込みによる火山フロントの島弧火山である.見方を変えると,伊豆マリアナ火山弧は,小さなフィリピン海プレートをつくる小さな海嶺(伊豆マリアナ島弧海嶺)と見ることもできる.
 伊豆マリアナ島弧海嶺は,大西洋中央海嶺,東太平洋海嶺,インド洋中央海嶺などに比較して,極めて小さな海嶺で島弧海嶺と表現した.

 
図2 フィリピン海のプレートテクトニクス.
   伊豆マリアナ火山弧は,太平洋プレートの島弧火山であり,
   フィリピン海プレートの海嶺でもある.

 伊豆東部火山群,富士山,箱根山,大島などは,単成火山の分布や岩脈などの方向性が北西ー南東方向で一致し,同じような引張りの場と考える.同じような引張りの場で複成火山になるか,単成火山になるかの違いは,マグマ溜りを覆う岩盤の強さに原因があると考えた.
 マグマ溜りを覆う岩盤が強い場合は,マグマ溜り
多量のマグマの供給があり,マグマ溜りの圧力が増しても,簡単には噴火しない,このような火山は,噴火を始めると,マグマ溜りの圧力が大きく,立派な火道をつくり,複数回の噴火が行なわれ,多量の溶岩やテフラを噴出する富士山,箱根山,大島の三原山のような複成火山になる.
 一方,岩盤が弱い場合は,マグマ溜りへのマグマの供給が少量であっても簡単に噴火する.噴火は,マグマの供給量が少ないので,1輪廻の噴火で終わる.火道のマグマが固結すると強くなり,次の噴火は,別の割れ目をつくって行なわれ,伊豆東部火山群のような独立単成火山群になると考えた(相原 2019).

3.伊豆東部火山群の考察
 伊豆半島東部の陸地に分布する約70個の単成火山群は東伊豆単成火山群と呼び,この単成火山群の東方海底に分布する約40個の単成火山群は東伊豆沖海底火山群と呼んでいる.2つの単成火山群は,噴出する岩石も似て,本質的な違いはなく.北西ー南東方向に長軸を持つ,長径約33kmの楕円形に分布する独立単成火山群である(図3).気象庁は,2つの単成火山群をまとめて伊豆東部火山群と呼び,活火山としている.これらの火山は, いずれも最近数十万年前から噴火したものである.
 手石海丘は,伊東市の沖合約4kmにあり,1989年に噴火した伊豆東部火山群の海底火山である.その大きさは,基底の直径450m,周囲からの高さ10m,火口の直径200mである(白尾1998).次の伊豆東部火山群の噴火は,図3の楕円形内のどこかで起ると考えられる.陸地で起ると被害が心配である.
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図3 伊豆東部火山群.
  白尾(1998)を参考にして作図した.

 単成火山は,富士山のように,大型の複成火山の山腹へ側火山として分布することが多い.
 独立単成火山群は,海嶺などプレートが開くような引張りの場に典型的にみられる.日本のような島弧では,東伊豆(静岡県),阿武(山口県),五島列島(長崎県)など局地的に引張りの場が生じ,限られた地域にしかみられない(白尾1998).
 伊豆半島北東部が引張りの場である説明には,相模湾の西部に南北走向・高角西傾斜の, フィリピン海プレート自身の裂け目(西相模湾断裂)を想定する考えもある.この西相模湾断裂によって分けられた西側の軽い伊豆半島側と 東側の冷たく重い性質を持った伊豆外弧の運動差によって断裂(裂け目)ができたという考えである.西相模湾断裂の方向へ地殻は拡大し易いので,伊豆半島北東部が引張の場になっているという考えである(石橋1988).
 伊豆東部火山群の多くの火山の噴出物は, 玄武岩〜安山岩質マグマによるものであるが, 約3,000年前のカワゴ平の噴火や約2,000年前の矢筈山の噴火は, デイサイト質マグマの噴火であった.
 伊豆東部火山群の代表的な伊東市の大室山について見ることにする.大室山は,約5,000年前に噴火したスコリア丘で,標高が約580mある.最初,激しいプリニアン式噴火でテフラを噴出し,スコリア丘ができた.次に, 噴火活動は,安山岩質溶岩の流出へ変化した.安山岩質溶岩は,スコリア丘の山腹を突き破って,3ヶ所から流出し,城ヶ崎海岸まで達した.大室山の噴火活動は,テフラの堆積層に,休止期を示すものがなく,1輪廻の噴火活動で終わったと推定される.テフラと溶岩の噴出量は約4億6,000万トンと計算されている(白尾1998).

 
図4. 大室山の安山岩質溶岩が分布する城ヶ崎海岸   2010年7月10日撮影.
 柱状節理が観察できる.
 
図5 アマツバメのコロニーのつばくろ島   2013年7月19日撮影.
 つばくろ島は,城ヶ崎海岸の安山岩質溶岩が波の侵食で孤立し, アマツバメにとって,4つ足の肉食獣などから守られた安全な岩である.アマツバメは,この岩をコロニーとし繁殖している.夏の季節には数百羽のアマツバメが観察できる.
 
図6 つばくろ島の上空を飛ぶアマツバメ   2013年7月19日撮影.
 アマツバメは腰の白色が目立つ,翼をひろげた大きさは43cmある.
 
図7 アマツバメ.   2012年7月9日撮影.
 アマツバメは,柱状節理など溶岩の割れ目へ,集団営巣して繁殖する夏鳥である. 抱卵と給餌のとき以外は,生活の大部分を空中で飛び回って過ごし,昆虫の捕食,睡眠,交尾も飛びながらするといわれている.夜は上空をゆっくり飛び眠るようである(杉坂2008).
 
図8 城ヶ崎海岸の円磨礫(直径約50cm)と甌穴(おうけつ,pot hole).   2013年7月19日撮影.
 見事に磨かれた球体の円磨礫は, 溶岩の割れ目にあった礫が打ち寄せる海の波によって回転し,磨かれてできた.このように大きな円磨礫は,珍しいが,やがて研磨されて小さくなり消える運命にある.
 残るのは,礫の回転で削られた丸い穴で,河川敷に多く見られ,甌穴,かめ穴(pot hole)といわれている.
  

4. おわりに 
 伊豆東部火山群のような独立単成火山群には,どのようなマグマ溜りが存在するか,また,マグマ溜りを覆う岩盤は,どうなっているか,関心があり,推測している.
 伊豆東部火山群の単成火山は,広い範囲に分布し,構成する火山の数が多い(図3).しかし,伊豆東部火山群のマグマ溜りは,1つだと考える.マグマ溜りを覆う伊豆東部の地殻は,特に弱く,割れ目ができ易くなっているに違いない(相原, 2019).
  aihara@mxz.mesh.ne.jp

引用文献

兼岡一郎・井田喜明ー(編)ー(1997):火山とマグマ.2 噴火現象と火山の一生 中田節也, 27-36,東京大学出版会.
杉坂 学(2008) :野鳥観察図鑑 成美堂出版,271p.
巽 好幸(1995) :沈み込み帯のマグマ. 東京大学出版会,187p.
中村一明(1989) :火山とプレートテクトニクス. 竹内 章・藤岡換太郎,フィリピン海プレート北端部の変動,185-211.石田瑞穂,沈み込むフィリピン海プレートの形状,257-264.石橋克彦,フィリピン海プレート 北端部のテクトニクスー西相模湾断裂,265-269.東京大学出版会.
町田 洋・白尾元理−(編)−(1998) :火山の自然史.3 伊豆半島 白尾元理 37-48,東京大学出版会.