ウソ丸見えストーリー 2号

その壱「メッセンジャーとワンカップ」(中編)


明日楽屋で黒田に会ったら、一発目は絶対に怒鳴りつけてやろう。耳ん中がキーンってなるくらいまで。だって、今日はいつものアレをあきらめなければな らないのだ!
楽しみのアレとは何かって。冷蔵庫ですっかり冷えきった『ワンカップ大関』のことである。一日の終わり、唯一安らぎを感じる瞬間だ。二丁目劇場の支配人 にイヤなこと言われようが、ミナミをうろついていて怖い兄ちゃんたちに絡まれようが、テレクラで知り合った女の子が待ち合わせ場所に来なかろうが、家に 帰り着いた勢いで冷たいワンカップをゴクゴク飲み、そして「プハァー」とため息さえつけば、すべてを忘れることができる。
半分くらいまで飲んだところで、2〜3個ほど氷を入れる。そしてコンビニで買ってきたばかりのポッキーのパッケージを引き裂いて、そのガラスのコップの 中に突っ込んでかき混ぜる。「コレさえあればきっと、きっと大丈夫や。明日もがんばれる…。」
そんなことをウダウダと考えているうちに、ポッキーのチョコレートが冷えてちょうどいい具合に固くなる。口にするとほんのり日本酒の味がして、たまらなく おいしい。

それにしてもショックだ。冷蔵庫で冷やしておいたはずのワンカップは、黒田に飲まれてしまったし、外に買いに出ても、酒の自動販売機は深夜なので売っ ていない。この悲しみをどこにぶつけたらよいのだろう。
「そうやん、まだ開いている店があるやんけ。」いつものコンビニじゃなくて、もう五分程歩いたところにあるコンビニは、酒も置いていたはずだ。
救われたような気持になって、ちょっと離れたところにあるそのコンビニに向かって足を進めた。
ふと空を見上げると星が輝いていた。星を見たら、何だか懐かしい気分になる。こうやって、夜道をのんびり歩いて、幸せな気分でいっぱいで…。
「子供の頃、銭湯からの帰り道、親父と二人で星を見ながら歩いたよなぁ。」と自分が小学生の時を思い出すのであった。

自分は小学生の頃、祖父母のもとに預けられ、育てられた。しかし、これはちょっとサギじゃないかと思った。というのも、祖父母と一緒に住むというのは、自 分としては計算外だったからである。
端目からは一見平和に見えていた会原家も、いろんな大人の事情というものがあるらしく、両親が別居することになった。
ある日突然親父に、「雅一、お前、父ちゃんと母ちゃんのどっちと一緒に住みたいんや?」と聞かれた。とっさに、「父ちゃんのほう。」と答えたけれども、特別 に親父が好きだとか、オカンが嫌いというわけではなかった。親父と一緒に住む家のほうが、オモチャ屋が近かったからである。今から思い起こすと、選ん だ理由は、それくらいのことしか思いつかない。そんなゲンキンな子供の思考と共に、親父との二人の生活が始まるはずだった。けれども、親父は自分の 手に負えないということで、いきなり祖父母に預けてしまったのである。オモチャ屋はめちゃくちゃ遠くなった。

祖父母と一緒に住んでからというもの、毎日の生活は辛かった。仲のよかった友達とも別れてしまったし、学校にもなじむことができず、新しい友達もなか なかできなかった。家に帰ってきても、今までの両親と同居していた頃と全く一緒とはいかなかった。
生活のリズムも違うし、食べ物の趣向も違う。おばあちゃんの作る料理はマズくはないのだけれども、ハンバーグやカレーライスはなかなか登場してこない。 焼き魚や煮物がしつこいくらいまでに多かった。
おやつも自分としてはアイスクリームの気分の時でも、ワラビモチや、オブラートに包まれたワケ分からん一口大のゼリーが出てくる。
おやつに耐えられなくなったというわけではないが、何度も家出をして親父の所に行った。しかし、そのたびに祖父母のもとに連れ戻された。
しかし、それでも何度も何度も家出をした。余りにも家出をするものだから、自分の身の回りのことが、ある程度自分でできるようになった頃、父親に引き取 ってもらえることになった。オモチャ屋も近くなった。
しかし、結局は親父との二人暮らし、学校から帰ってきても、家には誰もいない。晩飯のために一人で買い物に行ったり、ガス釜に米を仕掛けたりもした。 宿題を済ませてしまっても、一人では時間は有り余る。さみしさの限界に達しようとする頃、ようやく親父は仕事からクタクタになって帰って来るのだった。
「おい、雅一ぅ。風呂行くぞぉ。」というその言葉がうれしくてたまらなかった。凍てついた心に灯がともるようだった。風呂屋まで親父と二人で歩く十分足らず の道のり、そして、親父の背中を流す時など、とても幸せを感じていた。別々に暮らしていた間の、共有できなかった思い出を取りつくろうかのように、口か ら言葉が次から次へと躍り出た。
そういえば、風呂屋の帰り道、決まって親父は自動販売機でワンカップを買っていた。そして親父は、夏でも冬でも熱燗を買うのだった。俺が親父の所に引 き取られた真冬のことだけは、今でも鮮明に覚えている。いくら湯船でたっぷりと温まったといっても、冬の寒空の中、五分も歩いていたら体が冷えてくる。
「おい、雅一ぅ。寒いか?」猫背になりながら体をふるわせていると、
「ほら、星がいっぱいだなぁ。」親父はそんなことを言いながら、ワンカップを買い、それを自分のズボンのポケットに入れた。その膨らみに見とれていると、 必ず親父は俺の手を取り、ズボンのポケットに入れてくれるのだ。すっかり冷えきっていた指先が、生き返るように温かくなっていく。たくさんの冬の星座を 背景にしながら、寒さだけでなく、今までの辛かったことや、さみしかったことを忘れ、父親といることの喜びを小さい胸の中に感じずにはいられなかった。

そんな事を思い出しながら歩いているうちに、コンビニに到着した。

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メッセンジャー(会原雅一・黒田有)

平成3年4月結成のNSC10期生同士。
千原兄弟、ジャリズムらと心斎橋2丁目劇場の三本柱となって爆進中で、大阪での基盤が断然大きいコンビ。
メッセンジャーのソロライブは、デートにもいいかも知れない。

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