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コラム8
「知られざる『犠牲者』」
〜フレノールに臥せるオーリンの謎〜





今回のコラムの主人公は、オーリンである。

ここをご覧になるようなドラクエ4ファンの皆様に、この人物に関して、俺から改めて
語らねばならないことは全くないわけであるが、思考を整理するためにも、ここで
一度、ドラクエ4というゲーム中における彼の足跡をまとめてみようと思う。
かなり長いが、お付き合いいただきたい。



錬金術師見習い・オーリン。
高名な錬金術師、コーミズのエドガン、つまり「導かれし者」マーニャとミネアの
父親の、その直弟子にあたる人物である。
性格は実直にしてマジメ。強い腕力が自慢であったようだ。

彼の修行時代については明らかな記録が残っていないが、もうひとりのエドガンの
弟子・バルザックと共に、真面目に修行や研究に打ち込んでいたと思われる。

ところが、そんな日々に、大きな転機が訪れた。

ある日、師エドガンが発見、研究した人体強化法「進化の秘法」が、人間の正常な
進化の道筋を歪め、ひいては人間を滅亡させてしまう可能性があることに、エドガン
自らが気付いてしまったのだ。

エドガンは、自らの研究を悔い、一刻も早くこの「進化の秘法」を闇に葬ろうとした。
オーリンもそれに同調したのだが、ただひとりバルザックは、この「進化の秘法」
こそが人間の未来を切り拓くものだとして、彼らと対立。
ついには、バルザックはエドガンを殺害。止めようとしたオーリンにも手傷を負わせ、
「進化の秘法」の研究資料を持って逃走した。

オーリンは、師の仇を討つべく、再起を誓い、まずは傷を癒そうと、コーミズ西の
洞窟に身を潜めたのであった。

そして、しばらくの後。
オーリンの潜む洞窟を、ある人物が訪れる。
彼と同じく、エドガンの仇を討つため、バルザックを探していた二人…エドガンの娘、
マーニャとミネアである。
師の娘たちの決意を知り、オーリンも彼女たちに合流。ともにバルザックを追うことと
なったのである。

その頃、コーミズをはじめ、歓楽の不夜都市モンバーバラ、港町ハバリア、鉱山街
アッテムトなどの都市をはじめとした、大陸全域を治めるキングレオ王国の統治に、
非常にドラスティックな変化が起きていた。
王国の貿易を一手に担っていたハバリアの港を閉鎖、さらに各都市の住民に重税を
課したのである。

あまりに突然の統治方針の転換。その影に潜む黒幕の存在に、彼らは気付いた。
その黒幕こそは、エドガンの仇バルザック!

街の噂では、バルザックは現王を廃し、自らが王位に就いたという。
彼を倒さぬ限り、この国そのものが滅びてしまう。
オーリンたちは、わずか3名の手勢で、「キングレオ王」バルザック、ひいては
キングレオの統治システムそのものを敵に回す決意を固めたのだ。

大臣を驚かせ、玉座の隠し部屋に逃げ込ませるため、アッテムトで火薬を入手した後、
一行はキングレオ城に突入。
魔法の鍵の力で強固に守られている扉をオーリンの常識外れの腕力でこじ開け、大臣に
聞こえるように火薬を爆発させる。
驚いた大臣が駆け込んだ隠し部屋に、すかさず飛び込む!

そこで彼らが見たのは、「進化の秘法」でまがまがしい異形に姿を変えた、仇敵
バルザックであった。
怯まずに立ち向かう3人。バルザックの強力な呪文を「静寂の珠」で封じ込め、一丸と
なって戦う彼らに、やがて勝利の時はやってきた。
人間の姿に戻り、地に伏すバルザック。

しかし、真の悪夢は、そこから始まったのだ…!

バルザックが逃げ込んだ部屋で、3人を待っていたもの…
それは、バルザックをも上回る異形の存在。
4本の腕と4本の足、巨大な獅子の顔を持つ怪物だった!

怪物の圧倒的な攻撃力に、なす術もなく倒れ伏す3人。
命は奪われなかったものの、捕えられ、城の地下牢に閉じ込められた。
後は処刑を待つばかり…

だが、運命の女神は、彼らを見捨てなかった。
その牢に先に捕えられていた老人。驚くべきことに、彼はキングレオの現王であった
のだ。
王は全てを話す。彼の息子である王子がバルザックの誘いに乗り、「進化の秘法」で
怪物になり果てたこと。そしてその力で王位を奪い取ったこと…。

王は、彼らに抜け穴の存在を教え、隠し持っていたエンドール行きの乗船券を手渡す。
ハバリア港閉鎖前の最後の定期便。脱出のラストチャンスの、そのチケットだ。

このまま脱出できなければ、処刑は免れない。
その命を捨ててまで、乗船券を、そしてキングレオ王国の未来を、老人はオーリンたち
3人に託したのである。

抜け道から牢を抜け出した3人。
しかし、王城脱出を目前にして、兵士に見つかり、追撃を受ける。
オーリンは、マーニャとミネアを逃がすため、ただひとり、兵士たちに対し、絶望的な
戦いを挑むのであった!

キングレオ王、そしてオーリン。
彼らの想いに応えるべく、マーニャとミネアは、エンドール行きの船で、ハバリアを
後にする。
その胸に、悲しみと怒りを抱いて…。

恐らく、この時、マーニャもミネアも、オーリンは死んだと思っていたのだろう。

エンドールで、マーニャとミネアが、ひょんなことから知り合った若者。
それは、「地獄の帝王」を倒すべき、伝説の「勇者」であった。

勇者の「導かれし者」となったマーニャとミネアは、豪商トルネコ、サントハイムの
アリーナ王女とその従者たちといった仲間と合流しながら、再びキングレオ城へと
戻って来る。
バルザック、そしてキングレオ王子への復讐のために!

異形となり果てた王子を、苦戦の末に倒した一行。しかしそこにはバルザックは
いなかった。
バルザックは、住人が消失し、魔物の前線基地と化したサントハイム城の、その
司令官として移封されていたのである。

父の仇を討つために。城を、そして王国を解放するために。
一行の想いと決意は、サントハイム城での大決戦へと収斂していったのである
(余談だが、この「目的と想いの収斂」の過程は、このゲーム最大のクライマックスの
ひとつだと俺は思っている)。

決戦のため、サントハイム大陸に赴く勇者一行。
休息のため立ち寄った、大陸北東の街・フレノールで、一行を驚くべき人物が待って
いた。
死んだと思われていたオーリンが、宿屋のベッドに、傷ついた身体を横たえていたので
ある。

オーリンは、生きていたのだ。

深く傷つき、もはや共に戦うことのできないオーリンに、マーニャとミネアは改めて
バルザック打倒を誓うのであった…。

オーリンはこの後、再びマーニャやミネアたちと行動を共にする事なく、フレノールの
宿屋に留まることになる。
一方、勇者たち一行は、そのままサントハイム城に突入。さらに身体を強化した
バルザックを倒し、サントハイム城を解放した後、更なる戦いに身を投じて行くことと
なるのである。


なんか、書いている途中に興奮して妙に長くなってしまったが(笑)、何はともあれ、
オーリンはこんな感じのキャラクターだったわけである。
思い出していただけただろうか。



ところで、このオーリンの足跡を改めて見てみると、どうしても合点が行かない
ところがある。

この世界では、僧侶の呪文で傷を治す事ができる
そして、それぞれの街には、教会が存在し、神父が昼も夜も、神の救いを求める者の
ために門戸を開いているはずである。

にもかかわらず、オーリンは、エドガンを殺害された時の傷を西の洞窟にこもって
癒し、また、キングレオ戦のときの傷が癒えぬまま、フレノールの宿屋で寝ているわけで
ある。

どうしてなんだろう?
どうしてオーリンは、呪文で傷を治してもらわないんだろう?


いや、前者は、バルザックの追っ手が彼を探している可能性を考えると、村へ帰る事が
できず、神父に会えなかった、という事情だったのかも知れない。
エドガンが死んだ時点で、進化の秘法の詳細を知る人間はオーリンひとりだった
からだ。秘密保持のために彼が「消される」可能性が、ゼロではなかったのである。

しかし、フレノールにはあの家庭菜園神父(笑)がいる。動けないほどの怪我だとしても
神父の「往診」は可能なはずだ。
にもかかわらず、そうしないのはなぜなのか?


と、疑問に思った時が妄想時である。(笑)

実は、この時のオーリンにはもうひとつ謎があるのだが、それはオフィシャルな
ストーリーの範囲内では解決できなかった。それに関しては後述する。
閑話休題。



まず、この謎に立ち向かう前に、ひとつ、事実を確認。
第4章では、オーリンの傷は、ミネアの呪文で治す事ができた。
つまり、少なくとも第4章の頃のオーリンは、呪文で傷を治す事ができたのだ
(このことからも、上記の「バルザックの目を眩ますため、村に帰らなかった」という
説が有力と考える)。

ここで、俺はひとつ仮説を立てた。

「第5章のオーリンは、何らかの理由で呪文で傷を治すことができない」
ではないか。
言い替えれば、

「第5章のオーリンには回復呪文が無効である」

のではないか、と考えてみたのである。



「回復呪文が無効」とはどういうことか、それを説明する前に、まず、回復呪文は
いかにして傷を治すのか、それを考えてみよう。

ちょっと難しい話になるが、人間の傷の治癒機転は、以下の3つのステージに
分けられるのだそうである。
(1)第一期:炎症反応期
傷からの出血に含まれる血小板が凝集し、また貪食細胞を呼び寄せる。

(2)第二期:増殖期
貪食細胞の放出する化学伝達物質により、繊維芽細胞が傷口に集まって
コラーゲンを産生する。コラーゲンは繊維芽細胞や毛細血管と共に
肉芽組織を作り、これが傷口を塞ぐ。

(3)第三期:安定期
コラーゲンの産生量が落ち、分解量と同じになると、傷は安定する。

回復呪文は、恐らく、このステップを大幅に加速するのであろう。

強い回復呪文ならば、傷だけでなく、例えば切り落とされた腕なども再生する力も
あるであろう。
ならば、その呪文は、腕を形作る細胞の分裂、及び骨・筋肉・皮膚など各器官への
分化を加速する作用もあるに違いない。

細胞の分裂と分化。そしてそのステップ。
未分化細胞が、それぞれの機能を得てゆく過程。

それは、生物の細胞に記されている身体の設計図、すなわち「遺伝子」に従い、
「有るべきところ」に「有るべき姿」で細胞を再配置する作業に他ならない。

神の力で、人体におけるそのステップの引き金を引き、高速で進行させる。
これが、回復呪文の本質なのではないだろうか。

そして。
お気づきの方もいらっしゃるかも知れないが、この物語には、それと全く反する概念が
登場する。

遺伝子を書き換え、「有るべきでないところ」に「有るべきでない姿」で細胞を再配置
する、すなわち、人間を異形の怪物へと「進化」させる、太古の呪われたテクノロジー。
「進化の秘法」である
詳細はコラム6「ねじ曲げられた『遺伝子の道』」 参照な。



エドガンと弟子らは、「地獄の帝王」エスタークが産み出したものと知らず、人体を
強化する方法として「進化の秘法」を完成に近づけていった。

当然のことながら、人間を対象とした方法である以上、その効果の実証には、人間の
身体が必要である。
そして、その「効果を実証させるための人間」として、最も身近な存在…それが、
他ならぬ自分たち自身である
ことは、言うまでもないであろう。

事情を話して協力してくれる人がいれば別だが、物が物だけに、そういう人が簡単に
現われたとは思えない。
だとするならば、彼らは自らを実験台にするしかない。
(実は、我々の世界の、現在の医系・薬学系・理系の大学などの研究機関においても、
この辺の事情はあんまり変わっていなかったりする。(^^;)

まだ不完全であった「進化の秘法」。
その研究を進めるために、もしオーリンが、自分の体を実験台として師に
差し出したのだとしたら?
そして、その影響が、オーリンに残っているとしたら?


オーリンは、「進化の秘法」により、魔法の鍵をこじ開けるほどの腕力を得た(あの
凄まじい腕力の秘密も、そう考えれば理解できる)。
しかし、その反面、呪文による治癒・再生過程が「進化の秘法」により阻害を受けて
いる可能性は、十分にあるのだ。



いや、ちょっと待て。
さっき俺は、自分で「少なくとも第4章の頃のオーリンは、呪文で傷を治す事が
できた」と言ったぞ。
それは、上記の結論と矛盾しないか?


それが、矛盾しないのである。


第4章と第5章の間に。
呪文で傷を治す事ができたオーリンと、出来ないオーリンの間に。
一体どんな差があると言うのか?

それは、皆さんもよくご存じである。
オーリンは、キングレオ城の兵士との戦いで、重症を負っているのだ。

傷は身体への大きなストレスである。
かつてない傷。かつてない大きなストレス。
その負担に、オーリンの身体が屈したのではないだろうか。

オーリンに驚異的な腕力をもたらした「進化の秘法」が、大きなストレスを機に、
逆に彼に害を与えるものへと、その性質を180度反転させたのだ。
それは、恐らく未完成版の「進化の秘法」ゆえの不安定性なのだろう。



オーリンの傷が治らないのは、「進化の秘法」の影響下にある彼の身体が、
重症を負って回復呪文を受けつけなくなったからだ。

これが俺の結論である。

エドガンだけでなく、バルザックだけではなく。
オーリンも、実は「進化の秘法」の犠牲者だったのだ。恐らく。



さて、最後に、さっき言いかけた「もうひとつの謎」であるが…

どうしてオーリンは「フレノールで」寝ているんだろう?

オーリンを看病している女性の話によると、彼女は元キングレオ城の踊り子で、
城を脱出する時に、瀕死のオーリンに助けられたらしいのである。

いや、まあ、それはいい。
問題なのは、どう考えても、この時、オーリンと彼女が一緒にフレノールに渡る
手段が存在しない
ということなのだ。

最後の船の出航には恐らく間に合わないし、間に合ったとしても、乗船券のない
オーリンが船に乗れたとは思わない。
そして、もし船に乗れたとしても、それにマーニャとミネアが気付かぬはずがないのだ。
さらに、もし気付かれずに乗れたとしても、深手を負ったまま、エンドールから
どうやってフレノールまで行けたのか?
そもそも、その場合、フレノールまで行く必要があったのか?

と、いろいろ疑問が浮かぶのである。



前述のように、これは俺の妄想力では、オフィシャルのストーリーをねじ曲げずには
解決できなかったのである。

どういうふうにねじ曲げたのか…それは、実は、今まで俺が書いた小説に、ほんの
少しだけ出て来るのである。

俺の小説「私の中の炎」第3話。
ここで、勇者ちゃんにマーニャさんとミネアさんが身の上を話すシーンがあるんだが、
その中で、こういう台詞が出て来る。


「そして、最後に、ボロボロになった私たち二人にとどめを刺そうと、キングレオが
 火を吐いた時、オーリンが私たちをかばうように、前に‥‥」



そう。 うちのオーリンは、兵士と戦って重症を負ったのではなく、キングレオの炎で
吹き飛ばされ、行方不明になったのである。

これは実は、ひとえに俺の記憶違いだったわけであるが(汗)、この間違いが、
その後「フレノールでオーリンが寝ている理由」に結びつく妄想の鍵となるとは、
これを書いた頃の俺には知るよしもなかったのである。(笑)

どういうふうに結びつくか、そして、他にどこの歴史をねじ曲げたかは、今はまだ
秘密である。
というのは、このネタで、小説を一本書く予定があるからだ。

そんなわけで、その小説をお楽しみに。例によっていつになるか分かりません。(汗)


(おしまい)
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