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 『夕霧(大島本)

 かく渡りたまへるにぞ、いささか慰めて、少将の君は参る。物もえのたまひやらず。涙もろにおはせぬ心強さなれど、所のさま、人のけはひなどを思しやるも、いみじうて、常なき世のありさまの、人の上ならぬも、いと悲しきなりけり。ややためらひて、
 「よろしうおこたりたまふさまに承りしかば、思うたまへたゆみたりしほどに。も覚むるほどはべなるを、いとあさましうなむ」
 と聞こえたまへり。「思したりしさま、これに多くは御心も乱れにしぞかし」と思すに、さるべきとは言ひながらも、いとつらき人の御契りなれば、いらへをだにしたまはず。

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  第三章 一条御息所の物語 行き違いの不幸  [第八段 夕霧の弔問]

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