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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 泰助は一人残りて、人の呼吸《いき》を吹返さむとする間際には、秘密を唸り出す事もやあらむと待構ふれば、医師の見込みは過たず、良《やゝ》ありて骸は少しづゝの呼吸を始め、やがて幽《かすか》に眼を開き、糸よりも尚細く、「あゝ、此が現世《このよ》の見納かなあ。得たりと医師は膝立直して、水薬を猪口に移し、「さあ此をお飲みなさい。と病人の口の端《はた》に持行けば、面を背けて飲まむとせず。手を以て力無げに振払ひ、「汝《うぬ》、毒薬だな。と眼を〓《みは》りぬ。之を聞きたる泰助は、(来たな)と腹に思ふなるべし。

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