検索結果詳細


 『日本橋』 青空文庫

 腕白ものの十ウ九ツ、十一二なのを頭に七八人。春の日永に生欠伸で鼻の下を伸している、四辻の飴屋の前に、押競饅頭で集った。手に手に紅だの、萌黄だの、紫だの、彩った螺貝の独楽。日本橋に手の届く、通一つの裏町ながら、撒水の跡も夢のように白く乾いて、薄い陽炎の立つ長閑さに、彩色した貝は一枚々々、甘い蜂、香しき蝶になって舞いそうなのに、ブンブンと唸るは虻よ、口々に喧しい。
 この声に、清らな耳許、果敢なげな胸のあたりを飛廻られて、日向に悩む花がある。
 盛の牡丹の妙齢ながら、島田髷の縺れに影が映す……肩揚を除ったばかりらしい、姿も大柄に見えるほど、荒い絣の、いささか身幅も広いのに、黒繻子の襟の掛った縞御召の一枚着、友染の前垂、同一で青い帯。緋鹿子の背負上した、それしゃと見えるが仇気ない娘|風俗、つい近所か、日傘も翳さず、可愛い素足に台所|穿を引掛けたのが、紅と浅黄で羽を彩る飴の鳥と、打切飴の紙袋を両の手に、お馴染の親仁の店。有りはしないが暖簾を潜りそうにして出た処を、捌いた褄も淀むまで、むらむらとその腕白共に寄って集られたものである。

 10/2195 11/2195 12/2195


  [Index]