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 『泉鏡花自筆年譜』 泉鏡花を読む

 明治二十三年十一月二十八日、此の日発程。陸路越前を経て、敦賀より汽車にて上京。予て崇慕渇仰したる紅葉先生たらむとのみ志ししが、ながく面接の機なく、荏苒一箇年間。巷に迷ひ、下宿を追はれ、半歳に居を移すこと十三四次。盛夏鎌倉にさすらひし事あり、彼処も今は都となりぬ。或時は麻布今井町の寺院より、浅草田原町の裏長屋に移りし事あり。
 明治二十四年十月、牛込横寺町四十七番地に、はじめて葉先生を訪ぬ。志を述ぶるや、ただちに門下たることを許され、且つ翌日より玄関番を承る。十九日午前と覚ゆ。これより衣食煙草ともに、偏に先生の恩恵による。――新婚の令夫人、島田髷にておはせしかば、両三日、妹ぎみと思ひまゐらせき。

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