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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
白雪の飛ぶ中に、緋鯉の背、真鯉の鰭の紫は美しい。梅も、松もあしらつたが、大方は樫槻の大木である。朴の樹の二抱えばかりなのさへすつくと立つ。が、いづれも葉を振るつて、素裸の山神の如き装だつたことは言ふまでもない。
午後三時頃であつたらう。枝に梢に、雪の咲くのを、炬燵で斜違ひに、くの字に成つて――いゝ婦だとお目に掛けたい。
肘掛窓を覗くと、池の向うの椿の下に料理番が立つて、つくねんと腕組して、熟と水を瞻るのが見えた。例の紺の筒袖に尻からすぽんと巻いた前垂で、雪の凌ぎに鳥打帽を被つたのは、苟も料理番が水中の鯉を覗くとは見えない。大な鷭が沼の鰌を狙つて居る形である。山も峰も、雲深く其の空を取囲む。
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