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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 肘掛窓を覗くと、池の向うの椿の下に料理番が立つて、つくねんと腕組して、熟と水を瞻るのが見えた。例の紺の筒袖に尻からすぽんと巻いた前垂で、雪の凌ぎに鳥打帽を被つたのは、苟も料理番が水中の鯉を覗くとは見えない。大な鷭が沼の鰌を狙つて居る形である。山も峰も、雲深く其の空を取囲む。
 境は山間の旅情を解した。「料理番さん、晩の御馳走に、其の鯉を切るのかね。」
「へゝ。」と薄暗い顔を上げてニヤリと笑ひながら、鳥打帽を取つてお時儀をして、また被り直すと、其のまゝごそ/\と樹を潜つて廂に隠れる。

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