検索結果詳細


 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「へゝ。」と薄暗い顔を上げてニヤリと笑ひながら、鳥打帽を取つてお時儀をして、また被り直すと、其のまゝごそ/\と樹を潜つて廂に隠れる。
 帳場は遠し、あとは雪がやゝ繁く成つた。
 同時に、さら/\さら/\と水の音が響いて聞える。「――又誰か洗面所の口金を開放したな。」此がまた二度めで……今朝三階の座敷を、此処へ取替へない前に、些と遠いが、手水を取るのに清潔だからと女中が案内をするから、此の離座敷に近い洗面所に来ると、三ヶ所、水道口があるのに其のどれを捻つても水が出ない。然ほどの寒さとは思へないが凍てたのかと思つて、谺のやうに高く手を鳴して女中に言ふと、「あれ、汲込みます。」と駈出して行くと、やがて、スツと水が出た。――座敷を取替へたあとで、はゞかりに行くと、外に手水鉢がないから、洗面所の一つを捻つたが、その時はほんのたら/\と滴つて、辛うじて用が足りた。

 125/330 126/330 127/330


  [Index]