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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
しばらくすると、頻に洗面所の方で水音がする。炬燵から潜出て、土間へ下りて橋がかりからそこを覗くと、三つの水道口、残らず三條の水が一斉にざつと灌いで、徒らに流れて居た。たしない水らしいのに、と一つ一つ、丁寧にしめて座敷へ戻つた、が、その時も料理番が池のへりの、同じ処につくねんと彳んで居たのである。くどいやうだが、料理番の池に立つたのは、此で二度めだ。……朝のは十時頃であつたらう。ト其の時料理番が引込むと、やがて洗面所の水が、再び高く響いた。
又しても、三條の水道が、残らず開放しに流れて居る。おなじ事、たしない水である。あとで手を洗はうとする時は、屹と涸れるのだからと、又しても口金をしめて置いたが――
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