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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
又しても、三條の水道が、残らず開放しに流れて居る。おなじ事、たしない水である。あとで手を洗はうとする時は、屹と涸れるのだからと、又しても口金をしめて置いたが――
いま、午後の三時ごろ、此の時も、更に其の水の音が聞え出したのである。庭の外には小川も流れる。奈良井川の瀬も響く。木曽へ来て、水の音を気にするのは、船に乗つて波を見まいとするやうなものである。望みこそすれ、嫌ひも避けもしないのだけれど、不思議に洗面所の開放しばかり気に成つた。
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