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『高野聖』 泉鏡花を読む
心持余程の大蛇と思つた、三尺、四尺、五尺四方、一丈余、段々と草の動くのが広がつて、傍の溪へ一文字に颯と靡いた、果は峰も山も一斉に揺いだ、恐毛を震つて立竦むと涼しさが身に染みて、気が付くと山颪よ。
此の折から聞えはじめたのは哄といふ山彦に伝はる響、丁度山の奥に風が渦巻いて其処から吹起る穴があいたやうに感じられる。
何しろ山霊感応あつたか、蛇は見えなくなり暑さも凌ぎよくなつたので、気も勇み足も捗取つたが、程なく急に風が冷たくなつた理由を会得することが出来た。
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