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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 得右衛門立停《たちどま》つて四辺《あたり》を見廻し、「皆待つたり。此家は何うやら、例の妖物《ばけもの》屋敷らしいが、はてな。して見るとあの婦人《をんな》も化生のものであつたか知らん。道理で来てから帰るまで変なことづくめ。しかし幽霊でも己《おれ》が一廉《いつかど》の世話をして遣つたから、空《あだ》とは思ふまい。何の故《せゐ》だかあの婦人《をんな》は、心から可愛《かはゆ》うて不便《ふびん》でならぬ。今ぢや知己《ちかづき》だから恐しいとも思はぬ哩《わい》。おい、おらあ、一番表へ廻つて見て来るから、一所に来い。といへども一人として応ずる者無し。「そんなら待つて居ろ、どれ、幽霊に逢うて来ましよ。と得右衛門唯一人、板塀を廻つて見えずなりぬ。

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