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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「約束通り寝に来た。と肩に手を懸け引起し、移ろひ果てたる花の色、悩める風情を打視《うちなが》め、「何うだ、切ないか。永い年月好く辛抱をした。豪い者だ。感心な女だ。其性根にすつかり惚れた。従順《すなほ》に抱かれて寝る気は無いか。と嘲弄されて切歯《はがみ》をなし、「えゝ汚らはしい、聞度うござんせぬ。と頭を掉れば嘲笑ひ、「聞きたうなうても聞かさにや置かぬ、最《もう》一度念の為だが、思ひ切つて応《うむ》といはないか。「嫌否《いや》ですよ。「左様《さう》か、淡々《あつさり》としたものだ。そんなら此方《こつち》へ来な。好い者を見せて遣る。立て、えゝ立たないか。「あれ。と下枝は引立られ、殺気満ちたる得三の面色、之は殺さるるに極《きはま》つたりと、屠所の羊のとぼ/\と、廊下伝ひに歩は一歩、地に近寄る哀れさよ。蜉蝣《ふいう》の命、朝《あした》の露、そも果敢《はかな》しといはば言へ、身に比べなば何かあらむ。

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