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 『日本橋』 青空文庫

 露地に吾妻下駄カタカタの婀娜な女と因縁のある、唄の意味も心細いが、お孝が投遣りに唄うのは、勝気と胆勇を示すものと云って可い。その口癖がつい乗った男の方は、虚気と惑溺を顕すものと、心付いた苦笑も、大道さなか橋の上。思出し笑と大差は無いので、これは国手我身ながら(心細い。)に相違ない。
 その虚に憑入る、はこんな時に魅す、とある。
 今、橋の上を欄干に添って、日本銀行の方へ半ば渡り掛けると、橋詰の、あの一石餅の、早や門を鎖した軒下に、大な立ん坊の迷児のごとく蹲っていた男がむらむらと立つと、ざわざわと毛の音を立てて、鼻息を前にハッハッ獣の呼吸づかい。葛木の背後に迫って、のそっと前へ廻ると、両手を掉った不器用な、意気地の無い叩頭をして、がくりと腰を折って、

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