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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 山が真黒に成つた。いや、庭が白いと、目に遮つた時は、スツと窓を出たので、手足はいつか、尾鰭に成り、我はぴち/\と跳ねて、婦の姿は廂を横に、ふは/\と欄間の天人のやうに見えた。
 い森も、い家も、目の下に、忽ち颯と……空高く、松本城の天守をすれ/\に飛んだやうに思ふと、水の音がして、もんどり打つて池の中へ落ちると、同時に炬燵でハツと我に返つた。

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