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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「今年は今朝から雪に成りましたが、其のみぎりは、忘れもしません、前日雪が降りました。積り方は、もつと多かつたのでございます。――二時頃に、目の覚めますやうな御婦人客が、唯お一方で、おいでに成つたのでございます。――目の覚めるやうだと申しましても派手ではありません。婀娜な中に、何となく寂しさのございます、二十六七のお年ごろで高等な円髷でおいでゞございました。――御様子のいゝ、背のすらりとした、見立ての申分のない、しかし奥様と申すには、何処か媚めかしさが過ぎて居ります。其処は、田舎ものでも、大勢お客様をお見かけ申して居りますから、直きにくろうと衆だと存じましたのでございまして、此が柳橋の蓑吉さんと言ふ姐さんだつた事が、後に分りました。宿帳の方はお艶様でございます。

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