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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「吃驚亀《びっくりかめ》の子、空へ何と、爺《じじい》どのは手を泳がせて、自分の曳いた荷車に、ぐゎらぐゎら背後《うしろ》から押出されて、わい、というたぎり、一呼吸《ひといき》に村の取着《とッつ》き、あれから、この街道が鍋づる形《なり》に曲ります、明神様、森の石段まで、ひとりでに駆出しましたげな。
 尤も見さっしゃります通り、道はなぞえに、向《むこう》へ低くはなりますが、下り坂というほどではなし、その疾いこと。一なだれに辷ったようで、漸《やっ》と石段の下で、うむ、とこたえて踏留まりますと、はずみのついた車めは、がたがたと石ころの上を空廻りして、躍ったげにござります。

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