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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 と此の趣を――お艶様、その御婦人に申しますと、――然うしたお方を、何うして、女神様とも、お姫様とも言はないで、奥様と言ふんでせう。さ、其でございます。私は唯目が暗んで了ひましたが、前々より、ふとお見上げ申したものゝ言ふのでは、桔梗の池のお姿は、眉をおとして在らつしやりまするさうで……」
 境はゾツとしながら、却つて炬燵を傍へ払つた。
「誰方の奥方とも存ぜずに、いつとなく然う申すのでございまして……旦那。――お艶様に申しますと、ぢつとお聞きなすつて――だと、その奥様のお姿は、ほかにも見た方がありますか、とおつしやいます――えゝ、月の山の端、花の麓路、蛍の影、時雨の提灯、雪の川べりなど、随分村方でも、ちらりと拝んだものはございます。――お艶様は此をきいて、猪口を下に置いて、なぜか、悄乎とおうつむきなさいました。――

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