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 『婦系図』 青空文庫

 朝涼《あさすず》の内に支度が出来て、そよそよと風が渡る、袖がひたひたと腕《かいな》に靡いて、引緊《ひきしま》った白の衣紋着《えもんつき》。車を彩る青葉の緑、鼈甲の中指《なかざし》に影が透く艶やかな円髷《まるまげ》で、誰にも似ない瓜核顔《うりざねがお》、気高く颯と乗出した処は、きりりとして、しかも優しく、媚かず温柔《おっとり》して、河野一族第一の品。
 嗜《たしなみ》も気風もこれであるから、院長の夫人よりも、大店向《おおだなむき》の御新姐《ごしんぞ》らしい。はたそれ途中一土手田畝道《たんぼみち》へかかって、青田越《ごし》に富士の山に対した景色は、慈善市《バザア》へ出掛ける貴女《レディ》とよりは、浅間の社へ御代参の御守殿という風があった。

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