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『歌行燈』
従吾所好
処がね、其の私たちの事を言ふ次手に、此の伊勢へ入つてから、屹と一所に出る、人の名がある。可いかい、山田の古市に惣市と云ふ按摩鍼だ。」
門附は其の名を言ふ時、うつとりと瞳を据ゑた。背を抱くやうに背後に立つた按摩にも、床几に近く裾を投げて、向うに腰を掛けた女房にも、目もくれず、凝と天井を仰ぎながら、胸前にかかる湯気を忘れたやうに手で捌いて、
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