検索結果詳細


 『義血侠血』 青空文庫

 渠は親もあらず、同胞《はらから》もあらず、情夫《つきもの》とてもあらざれば、一切の収入はことごとくこれをわが身ひとつに費やすべく、加うるに、豁達豪放の気は、この余裕あるがためにますます膨張して、十金《じっきん》を獲《う》れば二十金《にじっきん》を散ずべき勢いをもって、得るままに撒き散らせり。これ一つには、金銭を獲るの難きを渠は知らざりしゆえなり。
 渠はまた貴族的生活を喜ばず、好みて下等社会の境遇を甘んじ、衣食の美と辺幅の修飾とを求めざりき。渠のあまりに平民的なる、その度を放越して鉄拐《てっか》となりぬ。往々見るところの女流の鉄拐は、すべて汚行と、罪業と、悪徳との養成にあらざるなし。白糸の鉄拐はこれを天真に発して、きわめて純潔清浄なるものなり。

 471/706 472/706 473/706


  [Index]