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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 沢山朝寐を遊ばして鐘は聞えず、鶏も鳴きません、犬だつて居りませんからお心安うござんせう。
 此人も生れ落ちると此山で育つたので、何にも存じません代り、気の可い人で些ともお心置はないのでござんす。
 それでも風俗のかはつた方が被入しやいますと、大事にしてお辞儀をすることだけは知つてでございますが、未だ御挨拶をいたしませんね。此頃は体がだるいと見えてお惰けさんになんなすつたよ。否、宛で愚かなのではございません、何でもちやんと心得て居ります。

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