検索結果詳細
『歌行燈』 従吾所好
と言ふ。……お三重は利剣で立たうとしたのを、慌しく捻平に留められたので、此の時まで、差開いた其の舞扇が、唇の花に霞むまで、俯向いた顔をひたと額につけて、片手を畳に支いて居た。恁う捻平に声懸けられて、わづかに顔を振上げながら、きり/\と一先づ閉ぢると、其の扇を畳むに連れて、今まで、濶と瞳を張つて見据ゑて居た眼を、次第に塞いだ弥次郎兵衛は、ものも言はず、火鉢のふちに、ぶる/\と震ふ指を、と支えた態〈なり〉の、巻莨から、音もしないで、ほろほろと灰がこぼれる。
566/744
567/744
568/744
[Index]