≪BACKMENUNEXT≫

しょにょにー。

 何もする事が無いというのは結構辛い、とは思う。
 普段ならする事が無ければ無いなりに眠ったり空想したりしているのだが、流石に人様の家に(と言って良いのか判らないが)お邪魔してぼんやりして過ごすのは失礼だろう、と思うので余計に辛い。もう少し慣れればそんな事も無いのかもしれないが、とにかく今現在は暇を持て余している状況である。
 誰か話し相手でも居れば良いんだけど。
 そんな事を考えつつ、手は鞄に伸びる。中から携帯を取り出して無意識にアプリを立ち上げてゲームを始めた。
 暇つぶしにゲームをやるのは良いけど、バッテリー切れるよな……程々にしておかないと。
 そう考えつつもやる事も無いのでつい無心でやってしまう。そのうち時折聞こえる電子音に興味が涌いたのか、幸村が顔を出した。
殿。何をなさっておいででござるか。」
「暇つぶしです。幸村さん今時間ありますか?」
殿が暇を持て余していると言うのならば、この幸村付き合いますぞ。」
 どうやら幸村も暇な様だ。二つ返事で引きうける。
「戦って準備にこんなにかかるものなんですか?」
 が拾われてから既に三日過ぎた。いつ合戦が始まるかと最初緊張していただったが、三日も何も無いと流石に気になる。特に拾われた時には既に何時戦が始まっても良い状況だっただけに、余計に気になる。
 すると幸村が言いにくそうに答えた。
「いつもはこの様に時間はかけませぬ。兵の疲労が増すだけで得策では無いでござるから。合戦が始まってしまえば、日数がかかる事も有り得るでござるが、準備だけでこの様に時間がかかるというのは拙者も初めてでござる。」
「何か不都合でもあったんでしょうか。」
 先日、佐助が偵察に行った時に持ち帰った上杉の旗印。あれに若しかして何か意味でもあったのだろうか。そう思い訊くと、幸村もう〜ん、と唸る。
「こういう事はお館様に尋ねるのが一番でござるよ。拙者も知りたい事でござるし、殿、お館様の所へ行きませぬか。」
「私が聞いても構わないんですか?」
「構わんでござろう。訊かれて困る事は言わないでござるよ。」
 にっこりと笑って言われたが、つまり訊いても教えてくれない事もあると言う事か。それは仕方のない事なのでも頷く。いざ参ろう、と二人揃って信玄の元へ向かった。
 然程離れた場所でもないので直ぐに幸村が目通りを願い、了承された。ぺこりとが警備の兵に挨拶すると、どうぞと笑って通される。
 は気付いていなかったが、武田軍の中ではかなり好意的に扱われている。存在が知らされた時は保護する事に懐疑的な意見、反対意見が数多くあったが翌日にはほぼそれが無くなった。それには幸村の存在が大きい。
 何しろ信玄の片腕として合戦で活躍する幸村が率先して世話をしている上、そのお陰と言うと憚られるが幸村の自軍への破壊活動がぴたりと収まったのだ。これはかなり嬉しい。
 幸村はの世話をしているつもりだろうが、その実幸村の世話をがしているのだ。話し相手になって、幸村が余計な事をしないようにしている。それにより今まで手伝いと称する幸村の破壊活動が無くなり、準備が滞り無く進むようになったので、は感謝されるくらいだ。おまけには元々他人には慇懃な方なので、緊張している事も手伝って控えめで丁寧とくれば褒める事は有っても貶す事も無い。三日経った今ではすっかり幸村の話し相手として受け入れられている。
「お館様、幸村訊ねたい事があり申す。宜しいでござるか。」
「なんじゃ幸村。…と、おお。もいたか。不便な事は無いか。」
「ありがとうございます。皆さん親切にして下さるので不便な事は無いです。ただ、暇は持て余しています。」
 苦笑交じりにが言うと、信玄も苦笑する。
「戦が始まらないのが不安なのじゃな。」
「そうです。何か有ったのか訊いても構いませんか。」
殿は始まらぬ戦に心を痛めておりまする。お館様、幸村もこの戦、何故始まらぬのか判りませぬ。何があったのでござろうか。」
 の後に畳み掛ける様に幸村が続けると、信玄はふむ、と一旦考えて話しだした。


 一報は二日ほど前の事。
 戦の準備に余念が無くそろそろ仕掛けるかと思った所へ、各地へ放っていた密偵の一人が戻って来た。詳細は不明だが、西国が統一されたと言う。同盟を組んだのか、それとも戦を仕掛けて領土を広げたのかその辺は不明だが、西国が纏まったのは確かだと言う。
 それが本当なら版図を広げる為の予定を考え直さねばならない。最終的に織田を倒すとしても、西国を攻める時に苦労するのは目に見えている。何せ智将毛利と猛将島津、長曾我部を個別に攻めるのも大変だと言うのに、もし同盟でも組まれて三国を相手にしなければならないとなると迂闊に手も出せない。同盟を組んでないとしても兵の数が増えているだろう事は容易に想像出来るので、これもまた難しい。
 そうこうするうちに二報目が入り、どうやら同盟を組んだ事が確実となった。これは拙い、という事で早急に軍議を重ねているうちに同じ情報が上杉の方にも入っていたのだろう、向こうの動きも無くなり今に至ると言う訳だ。


「同盟って組まれるとそんなに拙いものなんですか?」
 は頭の中で名前の挙がった三人を思い浮かべて訊いてみた。そもそもこの世界で同盟と言うのは組めるものなのだろうか。そんな疑問もある。
「場合に因るの。元々仲違いの多い国同士の同盟ならば、済崩しに解消と言う場合も多いが、一つの目的に因って組んだ同盟はそれを果たすまでは互いに協力し合う。天下統一は全ての武将の夢。その為に同盟を組んだとあれば、他の全ての国を下すまでは協力し合うであろうの。」
 信玄の説明には唸る。頭の中には攻略本に載っていたキャラ説。確か長曾我部は眼帯の白髪頭で毛利は緑色の変わった兜の人。島津は酒飲みのおじさんだった気がする。所詮ゲーム未プレイなにはその程度の認識しか無い。
「それでその三国は元々仲が良かったんですか、悪かったんですか。」
「良いとも悪いとも言えんの。ただ言えるのは島津は勇猛果敢、知略もある。そして長曾我部は四国統一を果たした風雲児。毛利は智将の呼び声も高い。その三人が同盟を組んだとあれば、かなり手強いと見た。」
「何故突然同盟を組んだんでしょうか。」
 の問いに流石の信玄も答に窮す。何せ組む理由が無いからだ。寧ろ、戦って相手を下した方が余程後腐れなくて良い筈なのだが。同盟は己に利が無い限り組む理由が無い。後ろを任せて寝首をかかれると言う事も有り得るので、人質の交換や婚姻などして国同士の結び付きを深めねばいつ何時裏切られるとも限らない。
 の問いに答えたのは、物見から戻ってきた佐助だった。
「今影から新しい情報が来たんですがね、大将。どうやら西の三国は異国から来た何とかって宣教師を封じる為に同盟を組んだようですよ。」
「宣教師じゃと?」
 驚いて訊き返す信玄に佐助が頷く。宣教師と言えばザビーか、とはまたも頭の中で攻略本のページをめくる。
「宣教師風情を封じる為に同盟を組んだというのか。」
「それがその宣教師、確かザビーとか言って自分が立ち上げたザビー教とか言う宗教を広める為に、手段を選ばず領民を洗脳してるらしいんですよ。で、どんどん広まって次は自分の国か、って危機感があったらしいです。」
「手段を選ばぬとは何たること! そのような怪しげな宗教、幸村許せませぬ!」
 佐助の説明に幸村が憤る。
「成る程、三国で手を組みそのザビーとやらを封じると言う訳じゃな。確かにその三国で睨みを利かせれば破竹の勢いで布教すると言う訳にも行かぬであろうな。」
 信玄の言葉に佐助がそういうこと、と頷く。
 ひとまずそういう事なら西は暫く動きが無いだろう。それは容易に想像がつく。そしてこの情報は上杉側にも届いているだろうから、向こうも何か動きが出るはず。
 西の三国が同盟を組んで中央に攻め入ると言うのなら、ここで下手に戦をして兵力を弱めるよりも休戦した方が得策だが、動きが無いとなるなら、このまま戦の準備を進めて寧ろ奇襲をかけたほうが良いだろうか、そう信玄が考えていると更に続報が入った。
「お館様、上杉に動きが!」
「なに! 先を越されたか!」
 先に動かれたか、と信玄が慌てると否定の言葉が返される。
「いえ、上杉謙信以下全軍撤退を始めております。」
「何じゃと? ここまで来て撤退じゃと?」
 幾ら準備に時間がかかり過ぎているとはいえ、撤退をするほどでは無い。まだ始まってもいないのだから。いや、始まっていないからこそ撤退したのだろうか。
「どうやら上杉領内で一揆があった模様。その鎮圧に上杉謙信自ら行くようです。」
「一揆って、北の方でですか?」
「いえ、長岡あたりと聞き及んでおります。」
 は一揆と聞いて真っ先に思い浮かんだのが最北端のいつき一揆衆だったから、思わず聞いてしまったのだがそうではないと聞いて少し安心する。小さな子供が一揆のリーダーと言うのに納得いかないものがあるし、上杉謙信がたとえ子供とはいえ一揆の首謀者を見逃すような男かどうかも判らない。出来ればいつきは何もしないでいて欲しい。はそう思う。
 まあ天下統一に名乗りを上げるひとりにいつきも含まれるので、いつかは対戦することになるかもしれない。だがそれはずっと後でいて欲しい。そんな事を考え。ふと気がつく。
「上杉側が撤退となると、この戦……?」
「我等の不戦勝、じゃな。わざわざ追いかけていく事もあるまい。」
 そう言うと傍にいた側近に他の武将や兵達にその旨伝えるように言う。
 まもなく伝令が行き渡ったのかどよめきや鬨の声が聞こえた。
「良かったでござるな、殿の妹御を探す当てでも話し合いましょうぞ。」
「そうしてくださいますか。助かります。」
 にこやかに言う幸村に、も思わず微笑んで答える。
「者共、甲斐に戻る準備をせい! 引き上げじゃ!!」
 信玄が叫ぶ。その声とともに佐助が消え、幸村が立ち上がる。
 良かった、誰も怪我もせず無事に済んで。がそう思った矢先、突然陣幕が破られた。


「おぉっと、そう言う訳には行かないねぇ。」
 いきなり現れた男の姿に、警護の兵が叫ぶ。
「何奴!」
「折角Partyに乱入しようと目論んでいたのに中々始めねぇからよ、こっちから挨拶に来てやったぜ。You see?
 その言葉に、思わずは相手を凝視した。陣幕が破られたと同時に幸村と周りの兵がを守るように囲んだ為、姿を殆ど見なかったのだが、隙間から覗く若武者は伊達政宗、その人だった。  6本の刀を構え、やる気満々の姿には思わず目眩がした。
 乱入って、何なんだこの人……。
 武田信玄と向かい合い一触即発の中、幸村が信玄大事とばかりに飛び出そうとする。しかしそれには信玄自身がおしとどめる。
「幸村ぁ! 儂の事は構わぬ! を守れぃ! その姿……独眼竜、か。」
「ぅお館様ぁ!!」
Ah? ……?」
 ここで初めて政宗が幸村の後ろにいるに気がついた。そして。
「何だぁ? アンタ……武田のAgentだったのか。面白くないねぇ、こそこそ嗅ぎ回るとは。」
「な、何の事ですか?」
 政宗の言うことがさっぱり判らず、思わず問い返す。しかし、政宗もそれには「Ha!」と鼻で笑い。
You can't fool me。折角だァ。アンタの首も、頂くぜ。」
「わっ、わわっ! やめてくださいっ!!」
 いきなり矛先が変わって思わずが叫ぶ。
「丸腰の女子に向かって卑怯なり! 真田源二郎幸村がお相手仕る!」
「ひとりで乗り込むとはいい度胸ぞ、伊達の小倅よ! しかし多勢に無勢、どうする!」
 幸村、信玄がを守るように前に出る。いつの間に戻ってきたのか、佐助もの前に立つ。しかし政宗は意に介さないようだ。寧ろ楽しそうで、それがには怖い。
「良いぜ、良いぜ。誰でもなぁ。…奥州筆頭伊達政宗。推して参る。」
 言葉と同時に刀を構え直し、と同時に破られた陣幕から新たに数人伊達の兵が現れる。
It's late! 雑魚はお前ぇらが相手にしろよ。俺は、あのAgentと爺をやる。」
「殿が早いんだよ! 勝手に行くんだから……ま、雑魚は任せてよ。」
 新たに現れたのはただの兵ではないらしい。武将クラスだ。軽口で会話をする辺り、親しい間柄のようで、は頭の中で該当する武将を検索する。しかし悲しいかなゲーム未プレイのには知識として出てくる名前は有名な大名ばかりで武将の名前など判る筈も無い。
 今にも鍔迫り合いが始まろうとしたその時、伊達の武将の一人が叫んだ。
「お待ち下さい、政宗様!」
What? 止めるな、景綱!」
 いきなり叫んだかと思うとの前に駆け寄る武将。突然の事に周囲が行動できないでいると、景綱と呼ばれた武将はの顔を確認してゆっくりと話しかけた。
「そのお顔……もしや、あなた様は様の御身内ではありませんか。」
を知っているんですか!?」
 突然の妹の名前に、思わずが叫ぶ。しかも何だ『様』って。
 驚いたのはだけでは無い。本陣内にいる武田軍も、伊達の武将達も一様に驚いていた。
、だとぉ?」
「うそっ! 様が武田軍にいるのっ? 拙いじゃん殿! 聞いてないよオレ〜!」
Shut up! 成実、慌てるんじゃねぇ!」
 慌てる武将――伊達成美と疑わしそうな政宗を無視して、話を続けるのは片倉景綱。この成り行きに伊達軍は呆然となっていたが、それ以上に武田軍も呆然としていた。

 の妹が伊達の既知だったのか。

 そんな疑問と。

 が武田軍にいるのか。

 双方そんな疑問が渦巻き、と景綱の会話に注目していた。
様を知っているも何も、大変お世話になりました。覚えている様の近しい御身内……妹君でしょうか?」
「いえ、が妹ですけど?」
 は普通に答えたつもりだった。顔がそっくりなのは双子だからだし、双子だから故、どちらが上か下かは言われなければ判らないだろう。そう思って答えたのだが、その答に景綱の方が驚いた。
「妹? まさか。様のほうが御年は上でいらっしゃいましょう。何かの間違いでは?」
 この言葉にの方が疑問に思う。
「いえ、双子で私の方が姉です。…何故の方が姉だと?」
「私の知っている様は、今のあなたとほぼ同じお姿で……十年前に伊達領にてお会いし、お別れしたのです。ですから、あなたと双子と言うのは……。」
 困惑気味に言う景綱の話の内容を反芻し、の思考が止まった。
「は? じゅうねんまえ? ですか?」
 ぽかん、と口を開けて聞き返したに景綱は頷いた。
 その反応に、どう言う訳だか政宗が嬉しそうに言う。
OK、OK。アンタの妹がって名前で顔が似てるってだけなら……Accidental resemblance、って奴だな。安心したぜ。心置きなく喧嘩吹っ掛けられるじゃねぇか。」
 嬉々として言う政宗はその言葉どおり、信玄に刀を向けようとする。しかし信玄はどう言う訳か武器を収めて政宗を見返す。
「伊達の小倅よ。儂は戦う気は失せた。それでも戦うと言うか。独眼竜の名を持つそなたが。」
「…Shit!
 暫くして政宗も刀を収める。戦意喪失の相手と戦う気は無いらしい。
 そもそも奇襲は成功しなければ意味が無い。この場合、途中までは成功していた。だが景綱の制止によって流れが変わってしまい、政宗と成実、景綱と少数の兵達は敵本陣の真っ只中にいるのだ。成功しない奇襲に勝算は無い。相手の戦意が喪失していることに感謝すべきだろう。
 信玄は景綱に向き直り、言った。
「景綱とやら、その娘は先日我が軍に迷い込んで来た者。決して最初から武田軍の一員だった訳では無い。妹を探していると言うのを不憫と思い、我等も協力すると言ったのだ。…先程の話、にとっては詳しく知りたい話かも知れぬ。話してはみなんだか。」
「政宗様……?」
OK、OK。仕方無ぇ。こうなったら一時休戦だろ。」
 と言っても戦を始めてもいないけどな、と政宗が続ける。それには信玄も「かき回しに来ただけじゃろう。」といなした。
 この展開についていけないのはひとりで、残された両軍の兵は其々持ち場に戻っていった。  幸村は不服そうに。佐助は面倒臭そうに。
 溜息をついて。
「何なんだ、この展開はーっ!」
 がひとり、叫んでいた。

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合戦の準備期間ってどのくらいなんだろう。調べれば良かった……
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伊達政宗乱入。予定通り。
しかしこんな呑気で良いのか、両軍。普通この展開だとばっさりやられてますよね、伊達政宗。返り討ちにあってるって。まあそれをしないのが夢だからこそですが。(笑)あと武田軍だから、って事にしといてください。(笑)
どうでも良い事ですが伊達政宗のエーゴについては、突っ込まないで下さい……いや、突っ込み入れられる人は入れてもいいですけど。出来れば正しいスラング募集中。(スラングに正しいとか間違ってるとかあるんだろうか。)
あ、「しょにょいちー」の最後で出てたのは成実と景綱です。どっちがどっちだかは口調から判断してください。
それと西国同盟のくだりは、判ると思いますが閑話その2で詳しく。(笑)