しょにょごー。
珍しくゆっくりと馬を歩かせて、政宗は城へと向かっていた。
頭の中ではつい先程の
たちとの会話がぐるぐると回る。
説明している間に、半ば忘れかけていた事が次々と思い出され、記憶は鮮明な思い出となった。
「時宗、大丈夫か。…
は怒るだろうな。」
カバンを抱えて森の中へ隠しに行った梵天丸と時宗丸は、後ろを振り返りつつ何処に隠そうかと相談した。
先ず、寺の中はダメだ。直ぐに見つかる。
城もダメ。不審な物が見つかれば直ぐに処分されてしまうだろう。流石に
の持ち物を勝手に持ち出した上処分までさせられない。
やはり森の中が一番だが、埋めて汚したりしたら
に一生恨まれる気がする。雨風に曝されない、何処か良い場所は無いだろうか。そんな事を延々話し合った。
今にして思えば子供だったのだと思う。大事な物と言っていたのに勝手に持ち出して、取引の材料にしようと考えるなど、稚拙すぎる。もしかすると『大事なもの』と言っていたのは単なる言葉のあやで、取るに足りないものかも知れなかったのだ。それなのに隠す事に夢中になり過ぎて、周りのことを全く考えていなかった。
やはり、子供だ。
その後は
に説明した通り、熊に遭って襲われそうになった所を、探しに来た
と小十郎が発見した。
「梵天丸様! 時宗丸様!」
大きな熊を見て思わず叫ぶ小十郎。
腰に差した刀は、熊に比べて余りにも頼りない。厚い毛皮と肉を引き裂く前に、その爪で逆に切り裂かれるのがおちだろう。こんな事なら槍でも持ってくれば良かった、と小十郎が考えていると
が何処で拾ったのか、長めの枝を持って二人の元へ駆けていった。
「
様! 危のうございます!」
「仕方無いじゃん、あのままじゃ二人とも危ない。一応
だって怖いですよ! だけど
には出来る事がある!」
はそう叫びながら二人に駆け寄り、叫んだ。
「森の主、在るべき場所に帰りなさい! 闖入者に寛大であれ。」
手にした枝で素早く地面に線を引き、「境界線。」と一言。
いきなり現れた
に、熊は驚いたようだ。どうも興奮しているらしく、口から泡を吹いている。襲ってくるかと思いきや、何故か千里が引いた線の辺りで右往左往している。
その間に、
はぶつぶつと何やら呟き始めた。
「我が愛する世界に告げる。我が名は
。森の主には敵意なし。速やかに在るべき場所に帰られる事を我は望む。森の主は森へ。我らは里へ。立ち去られよ、森の王。」
暫く待つが、熊はうろうろと三人の周りを歩くだけだ。風下に居る小十郎には気付かないのか、目線すら寄越さない。やや暫くしてから千里が呟く。
「…ダメだ。興奮してて効きゃしねぇ。まぁ熊だし判らなくて当然だしなぁ。結界が張れただけマシってとこだ。」
「結界?」
近くに居る熊が恐ろしくて、時宗丸と梵天丸が
にしがみ付きながら訊く。
「先刻引いた線から出ないで。そこから熊は入って来れないけれど、興奮しているから近寄ったらどうなるか判らない。それに結界もそう保たないだろうから……。」
はどうすれば良いのか気が動転している小十郎に向かって叫んだ。
「守役殿! 寺に戻って人を呼んでください! 人が多ければ熊だって馬鹿じゃない。逃げます!」
「ですが、皆様を置いて行くなど……!」
おろおろと小十郎が言うと、
は再び叫ぶ。
「片倉小十郎景綱! ガタガタ言わねぇでさっさと呼んで来い! Hurry up!」
「は、はいっ!!」
怒鳴りつけられて驚いたのか、小十郎は直ぐに踵を返し寺へと向かった。
はそのまま続けて梵天丸たちに言った。
「二人丸は
が熊を相手にしている間に、杉の枝を集めて。なるべく枯れた奴ね。それで松明を作る。」
「松明……?」
どうするのか訊こうとして気がついた。獣は火を恐れる。松明を作って、それで熊を追い払おうと言うのだろう。こくりと頷いて、二人は地面に落ちている杉の枝を集めた。
が作った『結界』から出ないように。
その間、
は熊に対して何やら告げている。言葉が通じないのは判っているが、それでも何かしらの効果はあるのだろう、次第に興奮が収まってきているようだ。
結界が小さいからか、地面には枝が一つも無くなった。集めて小さいながらも束にして
に渡す。
火種が無い、と言うことに気がついたのはその時だ。だが
は慌てず、「カバンを渡して。」と言った。受け取り、中を確認して取り出したのは、手の中に納まるほどの小さな四角い箱のようなもの。
どうするのかと見ていると、たちまちそこから小さな炎が立ち上がる。
「南天の守護者、朱雀の加護を。途絶えぬ炎となりて、我等を護り給え。」
見る間に松明に炎が揺らめき、熊は驚いたのか後退った。
「在るべき所に帰られよ、森の王。害を為す気は無いが、このままここに留まるようなら、人が来る。そうなる前に帰られよ。」
熊に向かって話しかける
は、何時もの丁寧ながら軽い口調ではなく、真剣そのものだった。松明を熊に向けながら、時折結界を引き直している。
凄い、と素直に梵天丸が呟くと時宗丸も興奮した顔で頷く。
は、凄い。あんなに大きな熊なのに恐れる様子も見せず、自分たちを守る。――大切な物を勝手に持ち出したのに。
ひきかえ自分はどうだろう? ただ
の後ろで言われるままに縮こまっているだけだ。情け無くて涙が出そうだ。
その様子を
が気付き、苦笑しながら言った。
「泣いても良いんだよ、自分に出来ない事が悔しいなら。次に出来る様に努力するか、しないかは梵ちゃんが決める事。
は出来る事があったからやるだけ。梵ちゃんが今やるべき事は、怪我をしないように、身を守る事。Okey-dokey?」
最後の言葉は判らないものの、梵天丸は頷く。自分の身は自分で守る。それは基本。
やがて小十郎が人を引き連れて来たのかざわめきが聞こえ始め、熊は一瞬そちらに注意を向ける。その時漸く
は熊の胸元の模様に気付く。
「ツキノワグマか。だったらOK!」
小十郎達が到着するのと、千里が叫んだのはほぼ同時だった。
「弦月を胸に刻みし森の王、在るべき場所へ戻りなさい。熊は森、人は里。違える事の無い事を我は望む。」
小さく唸ると、熊は後退りやがてくるりと身を翻して木立ちの中へ去っていった。見送る
は溜息をつき、小十郎は涙ぐみながら駆け寄って来た。
「梵天丸様、ご無事でしたか!
様。梵天丸様をお守り下さり、有難うございます!」
「梵天丸、時宗丸。
に礼は言ったのか。」
虎哉和尚にそう言われ、はじかれた様に二人が
に礼を述べる。それと、陳謝。勝手にカバンを持ち出した事。
「
様、ごめんなさい。オレが梵天にやろうって持ちかけたんだ。」
「時宗だけが悪いんじゃない。わ、お、俺も悪かったんだ。」
梵天丸の言葉に大人達が顔を見合わす。
「おや? 一人称変えたの? まぁ悪かったと思うのなら別に良いよ。時ちゃんも『様』って何さ。あとちょっと待ってね。」
は持っていた松明を両手に持ちなおして、呟いた。
「途絶えぬ炎の役目は終わりました。炎の守護者、朱雀に感謝します。」
ゆらり、と松明の炎が揺らめき、直ぐに小さくなって消える。残ったのは松明の残骸。良く今まで火が点いていたと思うくらいに小さな枝。
「あー……疲れた……眠……限…界……。」
呟くと同時に
がその場にへたり込み、何処か怪我でもしたのかと慌てて見ると、寝息を立てていた。
その後、延元に背負われて寺に戻った
は延々寝続け、起きたのは翌日の昼近くだった。
起きた
の枕元に居たのは、虎哉和尚と梵天丸、小十郎、時宗丸。
「大分無理をしたようじゃな。まだ疲れているようなら横になっているが良い。」
「ええまぁ。どうにも眠くて。ご迷惑おかけしました。…禅師は
の力に気付いていた様ですね。」
ふふ、と笑う
に虎哉和尚も笑って答える。
「初めに名乗られた時にな。名を用いて相手を縛す力、不用意に使う様なら追い出そうとも思うたが、使う様子も見えなんだし若様達が懐いておられる。何よりその若さで儂と張り合える。中々に面白かったぞ。」
からからと笑いながら虎哉和尚は立ち上がり退室した。残された3人は、再度
に礼を言い具合を尋ねる。
「悪くないですよ。ただ、眠いだけ。…そろそろ本当にお暇かもしれないですね。いきなり
が居なくなっても、心配しないで下さい。」
はそう言いつつカバンをごそごそと掻き回す。
「……居なくなるのか? お、俺のせいか?」
「梵ちゃんのせいじゃないですよ……って、何て顔してるのさ。折角の色男が台無しだ。」
「気休めは……っ?」
止めろ、と言おうとした梵天丸の口に何かが放り込まれた。驚いたものの不思議と吐き出そうとは思わなかった。
が、自分に毒を食わせる訳が無いと信じていたのだろう。
口の中に放り込まれたそれは、今まで食べた事の無い甘さで、鼻腔に広がる匂いも独特だった。
「疲れた時には甘い物。守役殿と時ちゃんにもはい、一つずつ。」
二人も食べた瞬間目を丸くして驚いた。
「
、これはなんだ?」
思わず言いたい事も忘れて訊くと、「チョコ。」と言いながら
も一つ口に放り込む。
「猪口?」
「いやいや、Chocolate、ね。
の世界のお菓子と言うか異国の食べ物と言うか。」
「異国……。
が時々使う変な言葉も異国の言葉か。」
笑って頷く
は、再び横になった。まだ眠気が抜けきらないらしい。
小十郎は二人を部屋の外へ連れ出そうとしたが、梵天丸は首を振る。
「もう少し居させてくれ、小十郎。…頼む。」
「……判りました。夕餉の支度が整いましたら呼びに参ります。」
泣いて良いのか笑って良いのか、怒って良いのか。そんな複雑な表情の梵天丸の内心の葛藤を思い、小十郎は時宗丸を伴い退室した。障子を閉める音の後、廊下を遠ざかる二つの足音が聞こえなくなると、寝ている筈の
が梵天丸に話しかけた。
「
の為に泣いちゃダメですよ。
が好きでした事だから、梵ちゃんのせいじゃない。」
「泣いてなどいない。」
そう言う梵天丸の視界は熱く歪んでいた。
「どうして、
はそんなに強いのだ?」
「腕っ節はからきしだけどねぇ。…ってごめん。茶化すの止めよう。」
再び起き上がると、
は梵天丸に向き合った。
「強くは無いよ。ただ、
は梵ちゃんや時ちゃん、守役殿が好きなだけ。好きな人を守りたいと思う気持ちが強かっただけだと思う。」
「俺は好きと言う気持ちが足りないのだろうか。」
「う〜ん、多分梵ちゃんは自分を好きになってないからだと思うね。梵ちゃんは自分を好きになる事が先でしょう。自分を嫌いな人間は自分を守ろうって気持ちが足りないと思うよ。自分を守れなければ他人を守る事も出来ないと、
は思うね。」
何かを守ろうと思う気持ちが、強くなると言う事なのだ。梵天丸がその事について考え始めると、
はまた寝始めた。
いつの間にか梵天丸もうたた寝をしたらしく、気付くと夕方近くなっていた。障子に伸びた夕日がそれを教える。梵天丸が起きた気配につられたのか、
も目が覚めたらしい。欠伸をしつつ立ち上がった。何処に行くのかと慌てた梵天丸に、
は「ちょっと厠。」と苦笑して答えた。
「厠までカバンを持って行くのか。」
「んー……一応大事なものだしね。」
「……すまぬ。」
無断で持ち出したことを再度謝ると、
は笑いながら障子を開けて廊下に出ようとして止まった。
どうしたのかと振り向いて、梵天丸は異変に気付いた。
「梵ちゃん、お別れみたい。
は行くね。」
そう言う
の背後には、普段なら廊下と、庭と、そして夕刻近くの夕焼け空が広がっている筈。それなのに、障子を開けた瞬間から部屋に広がったのは潮の香り。
目の前に広がるのは、見た事も無いほど眩しい位の空と海。青、蒼、藍。有り得ない程の鮮やかさ。
「行くな、
!」
思わず
は首を振る。逆光でよく見えないが、苦笑しているようだ。
「止めてくれるのは嬉しいけどね。出会いがあれば別れがあるんですよ。」
「別れる為に出会うなんて、意味が無いじゃないか。」
「でも、別れないと次にまた出会えないよ。
のここでの役目はもう終わり。梵ちゃんは、
の代わりに色んな人と出会いなさい。出会って、成長してね。」
「
……。」
泣きそうな顔をしている梵天丸の頭を、
はくしゃくしゃと撫でて言った。
「大丈夫、梵ちゃんは自分が恰好いい事も強い事も自覚していないだけだから。判れば、
の事はすぐ忘れるよ。ま、別れの後には出会いがあるもんなんですよ! そう言う訳で、So long、Good luck!」
するり、と身を翻すように敷居を跨ぎ直ぐに障子が閉められた。慌てて梵天丸が再び障子を開けると、そこには普段通りの風景。廊下と、庭と、夕焼け空。青い色は何処にも無かった。
呆然としている梵天丸を、小十郎が見つけたのはその直ぐ後の事で、梵天丸は彼の姿を見かけた途端、抱き付いて泣き出した。
常ならぬ彼の様子に驚いた小十郎だったが、部屋の様子と続く言葉に
が去った事を悟る。
「小十郎、俺は、俺はっ……俺が自分が厭になるっ……。
に何も言えなかった。俺が、もっと強かったらきっと
を笑って見送ったんだ。それなのに、何も、別れの挨拶さえ言えなかった……っ!」
「梵天丸様、
様はきっとお判りですよ。」
「そんな事は判ってる。ただ、俺は自分が情け無いだけだっ。…俺は変りたい。もっと強くなりたい。俺は変われるか、小十郎。
が驚く位に強くなれるか?」
真剣に訊く梵天丸に小十郎は「勿論です。」と頷く。決してお世辞ではなく、彼は素質だけはあるのだ。ただ、今まで自信が無かっただけで。
小十郎の言葉に、梵天丸は決意した。
が驚くくらい、強い男になると。
「…Shit。」
全て思い出して政宗は小さく舌打ちした。
あの後、剣術も勉学も一心に励んで、そして自信を無くした一番の原因であった右目を摘出して。それから周囲が驚くほどに変わった。
ただ、その頃から
の事は思い出さなくなっていた。その事を今思えば恐らく
が別れ際に言った言葉が原因なのでは、と思う。
判れば、
の事はすぐ忘れるよ。
その言葉通り、忘れてしまった。
つい先日、合戦場で
の名前を出すまで思い出しもしなかった。当時の
と、ほぼ同じ姿だったから見ればすぐ判った筈なのに、言われるまで気付きもしなかったと言うのは、やはり
の言葉が一因だろう。
と双子と言う事は、出会った当時の
と同じ年齢の筈。言動からもっと年上かと思っていたが、既に自分は当時の彼女の年齢を追い越していた。
「I was able to change?」
自分が変わった、と言うのは他人から見ても自分でもそう思う。だが
は、どう思うだろう。10年経っても未だ子供扱いされるのだろうか。それとも強くなったと認めてくれるのだろうか。
彼女に認めて貰えなければ、まだ子供から抜けきれないのでは無いかとそんな風に思ってしまうのは、恐らく感傷だろう。充分に変わった筈なのだから。
「らしくねェなァ……。」
気付けば既に城は目の前だった。
軽く首を振り、気分を変えて馬を走らせる。風を切る爽快な気分に暫し身を任せて、政宗は城へと戻り、景綱に迎えられた。良く見ると様子がおかしい。
「What's happened?」
馬を任せて歩きながら問い、耳打ちされた内容に眉を顰める。
「如何致しますか。」
「…放っとけ。」
政宗の一言に、景綱は驚いたものの次の言葉に頷いた。
「何の為に左月を遣ったと思ってる。それに真田もひとかどの武人だ。おまけに忠義一筋でおかしな忍も飼ってるとくれば二人に任せときゃNo problemだろ。」
「判りました。それでは此方の方は……?」
「何処の配下だ。芭蕉か、左近か。まぁ何処のでも構わねぇが、伝えとけ。Who is your master、ってな。」
「Yes、sir。」
了解の言葉を残して景綱が立ち去る。
その後姿がつい先程まで回想していたからだろう。
と重なり、別れ際の言葉を思い出す。当時の自分には全く理解できなかった異国の言葉。
「またな、頑張れよ、か……。」
再会を約束するような言葉だが、
と会ったからだろうか。その言葉が現実味を帯びて来た気がする。
政宗が慌しくやって来て慌しく帰って行った事で、一日があっと言う間に過ぎた気がするのは気のせいではないのでは、と
は思う。
どうもあの人は幸村さんとは別の意味で疲れる人だ、と思いつつ
は用意してもらった床に横になるなり眠りに落ちて行った。普段なら朝まで殆ど目は覚めないのだが、その夜は違った。
夜半過ぎに目が覚め、ふと室内の雰囲気がおかしい事に気が付いた。
暗闇に目が慣れ、目の前の背中が佐助だと気付くと同時に、彼が戦闘態勢で居ることに気付く。驚いて起き上がろうとしたものの、佐助に制され、そのまま横になる事暫く。佐助の正面に誰か居る事に漸く気付く。
「誰の命か知らないけど、こっちも仕事なんだ。大人しく尻尾巻いて帰っちまった方が良くない?」
「……此方も仕事。」
軽い口調とは裏腹に、佐助が緊張しているのが判る。
何でよりにもよって自分の寝ている部屋で、武器を持った人間が二人も居るのか。いや、更に良く見れば、幸村も刀を構えて誰かと対峙している。槍で無いのはこの狭い部屋で振り回すには逆に不利だからだろう。それにしても何故よりにもよってこの部屋なのか。
の疑問はすぐに解けた。
「御命、頂戴。」
一瞬の隙をつき、佐助の脇をすり抜けた忍びが
に刃を向けた。
「えーっ!? 私っ??」
何で私が、と言う疑問はともかくとして逃げなければ殺られる、と咄嗟に身体を横に回転させて刃先から逃げる。
ゴロゴロ回転したせいで頭がくらくらするが、それに構っている暇は無い。そのままふらつく足で近くに居た幸村の背中に回る。
背後の
の無事を確認し、幸村は刀を構え直して叫んだ。
「夜半に女子を襲撃とは無礼千万! 何処の家中か、真田源二郎幸村がお相手致す!」
幸村の気迫に押されたのか2、3歩後退した相手の装束を見て、佐助が呟いた。
「黒い脛当て……黒脛巾組の者か。」
「え? くろはばき……?」
耳慣れない単語に訊き返すが、佐助は構わず相手に瞬時に詰め寄り切っ先を喉元に向けた。
「黒脛巾組と言えば伊達の御大将の配下。この事政宗殿は御存知か!」
幸村の叫んだ内容に
は驚いた。この忍者達が政宗の配下と言う事は彼が
を殺すように命じたのだろうか。昼間の様子からはそんな素振りはちらりとも思わなかったが、私が邪魔なのだろうか。そんな事を一瞬考えたものの、いや、幸村の口ぶりだと違うようだ、と
は思い直す。これは彼等の単独行動か、別の人間からの命令だ。
忍者が命令も無く単独行動を起すと言うのは余程の事だと思うので、政宗以外の人間からの命令だと思うが、自分を殺してどんな利点があるのかサッパリ思いつかない。
後で説明してもらおうと思っていると、目の前を人が飛ぶ。幸村との鍔迫り合いで、勢い余って飛ばされたらしい。そのまま襖に激突し、襖ごとふっ飛んだ。
外れた襖の向こうには、鬼庭良直が槍を構えて待ち構えていた。厳しい顔つきで室内を睨む。
幸村と佐助が臨戦体制をとるが、良直が見ていたのは彼等ではなかった。
「黒脛巾よ、其方等の主は誰ぞ! 政宗様の御意思に叛くと知っての所業か。ならばこの鬼庭良直、伊達一門衆としてお相手致す。かからっしゃい!」
良直が槍を一振りして構え直すと、黒脛巾と呼ばれた忍者たちは瞬時に姿を消した。佐助も後を追う為かそのまま姿を消す。
三人になった室内は未だ殺伐とした雰囲気だったが、良直が槍を置き
に頭を下げた所で緊張感が解けた。
「
殿、申し訳ござりませぬ。斯様な振舞い、決して殿の御意志では御座りません。御理解頂きたい。」
「さ、左月さん、頭をあげて下さい。別に政宗さんが命令したとか思ってないですから。」
年嵩の人間に頭を下げられる居心地の悪さから、
は焦って良直に頭を上げるように頼む。
「そんな事より説明してください。私には何が何だかサッパリです。」
「それについては俺様から説明するよ。」
いつの間に帰って来たのか、佐助が天井裏から降りて来た。「首尾は?」と問う幸村に首を振るあたり、とり逃がしたか見逃したか。ともかく無事で
はホッとした。
今更寝直せる筈も無く、
は説明を聞く為に部屋を移る事にした。
文才の無さゆえ短く終わった黒脛巾襲撃。本当はもう少しチャンバラやらせたかったんですけどね。でも左月の台詞書けたから良いや。
主人公が恰好つけすぎです。思い出の中で美化されてる。
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おかしい。終わらない。ともかく過去の話はこれで終わりです。
本当は姉襲撃の話もこの回で終わらせる予定だったんですけど……また次回持越しです。でもあんまり説明する事も無いんで(大方の見当はつくと思うから。)ちょっぴり端折らせてもらって、本題の方進めようと思います。
黒脛巾組については、知ってる人は知っている周知の事実らしいですが、私知りませんでした。(笑)因みに何故芭蕉と左近かと言うと、芭蕉の方は地名になるくらい有名だし、左近は私が好きな名前だからです(笑)右近も好きですよ。(黒脛巾の首領に右近は居ませんが。)
主人公達の年齢は文中にありますが、政宗よりは下という事にしています。いや、ゲームの主役って大体ティーンエイジャーじゃないですか。中には壮年とかありますけど。取り敢えずそう言うことで。(あと若干乙女向け仕様って言うのも…(笑)似合わないな。)
知識が年齢の割に異様にあるのは、知識欲さえあればこの位は軽いだろう、と言うのと経験値だけは高いので色々知ってる事にしてます。歳くってても何も知らない人いるしね。
早く主人公出してバカなこと語らせたいなあ……