第52回定期/受難節コンサート2002(1)
  J.S.バッハ/「ヨハネ受難曲」(1725年 第2稿)  


2002/ 3/15 19:00 東京オペラシティコンサートホール・タケミツメモリアル


J.S.バッハ/《ヨハネ受難曲》(1725年 第2稿)BWV245


《出演》

指揮鈴木雅明
独唱:ゲルト・テュルク(福音史家/テノール)
    エッケハルト・アーベレ(イエス/バス)
    ドミニク・ラーベル(ソプラノ)
    ロビン・ブレイズ(カウンターテナー)
合唱と管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン *全出演メンバーはこちらをご覧ください!(02/03/13)


《バッハ『ヨハネ受難曲』第2稿》
 
BACHを愛する皆様

ヨハネ受難曲は、バッハがライプツィヒで初めて書いた受難曲であり、その後2回の再演を経て、生涯最後に演奏した受難曲でもあります。よほど愛着があったにちがいありません。しかし、ひとつの大きななぞが私たちを当惑させるのです。1724年の受難日にヨハネ受難曲を初演したバッハは、その翌年1725年にも再び同じ受難曲を取り上げ、しかもその際、なぜか大きな変更を加えたのでした。冒頭合唱を、後にマタイ受難曲の第1部終曲に使われた壮大なコラール幻想曲『人よ、汝の罪の大いなるを嘆け』に代え、イエスが兵卒に打たれた直後には、激しいバスソロが、地を揺るがすコンティヌオとソプラノコラール、さらに飄々と鳴るトラヴェルソという奇妙なバランスを伴ってアリア『天よ裂けよ、地よ震え』と叫ぶのです。テノールにも長大なアリアを2曲新たに与え、さらに終曲のコラールをカンタータ23番の終曲に用いられたコラール『キリスト、汝、神の小羊』に変更しました。
初演時のパート譜は、生涯の最後まで丹念に使われましたが、この稿の再演では、第2稿の変更はすべて捨て去られ、一顧だにされませんでした。バッハはこの第2稿をどのような思いで作り上げたのでしょう。バッハの全作品の中でも、最も劇的で、最も技巧的なバスとテノールのアリアが、なぜ一度も再演されなかったのでしょう。一体、1725年の受難週には何があったのでしょう、私たちはただ想像するしかありません。
ヨハネ受難曲第2稿は、何か歪な奇妙な存在としてのみ知られ、滅多に演奏されることはありません。私たちBCJでは、これに属する新しいアリア3曲のみを録音して、ヨハネ受難曲のCDに付録として収めましたが、それらが受難物語の脈絡の中で、果たしてどのような劇的な効果をもたらすか、今からわくわくする気持ちを押さえることができません。

鈴木雅明 (バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督)

(02/03/09:チラシより転載)


《資料》『ヨハネ受難曲』第2稿のスコアの見方

 初めての第4稿演奏時にUPした「第4稿のスコアの見方」に準じて、今回演奏される「第2稿のスコアの見方」を記してみました。少しでも鑑賞の参考にしていただければ幸いです。(なおページ数は音楽之友社版の「新バッハ全集」による「ヨハネ受難曲」のミニチュア・スコアのものです。)


 第1部、まず最初の第1曲はこの第2稿だけに採用された、後に『マタイ受難曲』の第1部の終曲に置かれることになるコラール《人よ、お前の大きな罪を嘆くがよい》です(1ll:p206〜231)。(※ただし『ヨハネ』第2稿では変ホ長調で『マタイ』ではホ長調です)
このあと、第10曲目までは初期稿が採用されていますので、付録1の楽譜のp183〜205を見て下さい。なお、p204にある第10曲20小節目のコンティヌオのヴァリアンテは第4稿用ですので、採用されません。
 その後、p40の第11曲「コラール」に戻り、すぐに今度は付録にある11+のアリア(p232〜241)へと進みます。このアリアが終わると再びp41の12aに戻り、p43の12cまで終わったら、再度付録の13ll(p241〜246)へと進みます。このアリアが終わってp50の第14曲のコラールを演奏して第1部が終わります。

 第2部はp51の第15曲から始まります。p65の18cまで進んだら、次は付録の19ll(p247〜250)に飛び、このアリアが終わるとp78の21aに戻ります。その後はページ通りに第39曲の合唱まで進みます(〜p163)。この第39曲が終わると付録に飛び、40ll(p251〜258:カンタータ23番の終曲のコラール《キリストよ、神の小羊よ》と同じ音楽)が演奏されて第2稿は幕を閉じます。

 第35曲のアリアのオブリガード・パートはフラウト・トラヴェルソ1にオーボエ・ダ・カッチャ1であったとされています。
 またコンティヌオパートに対する「col Bassono grosso」(コントラバスーン入り)、「senza Bassono grosso」(コントラバスーンなし)の記載は第4稿用であるので採用されません。第25曲のcの31小節目のピラトのパートの前打音も同様に第4稿用ですので採用されません(p119)。

*以上のように、新全集版のスコアを用いるとかなり「いったり来たり」の状態になってしまいます。バッハが考えた第2稿の流れをスムーズにたどるにはかなりの工夫が必要でしょう。私が実際に体験した第2稿の演奏(1996年2月の横浜合唱協会による演奏。指揮は現トマス・カントルのビラー氏。ちなみにアルト・ソロは米良さんが歌っていました!)でも、大きな指揮者用のスコアに付せんがたくさん付けられていて、何度もめくり直しながら指揮をとっていらっしゃいました。音楽の流れを大切にする鈴木雅明/BCJではどのような工夫がなされているでしょうか?!  BCJの演奏、いよいよです。

(02/03/12)

【コメント】

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