第14回定期
  J.S.バッハ/教会カンタータ全曲シリーズ VII
  〜三位一体後第8主日のためのカンタータ〜 


'94/6/30  19:00  カザルスホール 


J.S.バッハ/管弦楽組曲第2番 BWV1067

J.S.バッハ/教会カンタータ

   《主なる神、我らがもとにあらずば》 BWV178
   《神よ、我を調べ、我が心を知りたまえ》 BWV136
   《人よ、汝に良きこと告げられたり》 BWV45


指揮:鈴木雅明

独唱:穴澤ゆう子(A)、石井健三(T)、小笠原美敬,萩原潤(B)

独奏:朝倉未来良(トラヴェルソ)、川村正明(オーボエ・ダ・モーレ)、塚田聡(ナチュラルホルン)

合唱と器楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

    コンサート・ミストレス:若松夏美

    通奏低音:鈴木秀美(チェロ)、桜井茂(ヴィオローネ)、堂阪清高(ファゴット)、
           戸崎廣乃(チェンバロ)、能登伊津子(オルガン)


【プログラム『巻頭言』
 
皆様,ようこそお出でくださいました。
 
 今夕は、三位一体後第8主日という日曜日のためのカンタータを3曲集めました。ルター派では、復活祭の50日後にあたる聖霊降臨際(ペンテコステ)の翌週、父と子と聖霊によるキリスト教会が誕生したことを記念して、三位一体の祝日を祝います。そしてその次の日曜日から約半年が三位一体節となり、第1主日、第2主日と数えて、ほぼ毎年第25ないし第26主日に至り、そしてまた待降節が巡ってくるのです。ですから第8主日は、おおよそ7月の中旬から8月の初めにあたる日曜日になります。
 カンタータの大半は、それぞれの日曜日に読まれる聖書の日課に従って書かれていますが、この日の福音書の聖書日課は、マタイによる福音書第7節15章から23章。有名な「山上の垂訓」の後半にあたります。この直前の部分で、イエスは「狭き門から入れ」という有名な教えを述べ、それに導く導き手としての「預言者」を吟味して、「偽預言者」に警戒するよう教えるのです。
 同じ主日に対するカンタータは、同じ主旨のテクストを持つわけなので、往々にして同じような曲想が用いられることになりますが、今夕の3曲は、互いに類似したテクストの内容を持ちながら、異なったスタイルの音楽が採用されている点で、注目すべきでしょう。特に各カンタータの第1曲目の性格が非常に対照的で、それぞれが強い個性に彩られています。
 まず前半に演奏する178番では、オーボエのe音ただひとつの音から始まる印象的な冒頭に注目してください。2年前の第1回定期公演で取り上げた第177番と似て、全体にコラールの歌詞が当てはめられていきますが、第1曲目では曲全体に、神に敵対する邪なる者たちの猛り狂う様子をオーケストラが描き、合唱はコラールを歌います。第3曲目の波の音型、第6曲目のよろめく音型など、象徴的な表現に満ちた作品です。136番の第1曲目では、このシリーズで初めてホルンが登場します。このホルンパートは、高いA管の楽器が用いられますが、非常に演奏困難なソリスティックなパートです。冒頭のホルンと同じモティーフをソプラノがフーガのテーマとして歌い、全体が祝祭的な気分に溢れた秀作です。さらに45番では、フルート2本を加えて、幾分穏やかなしかし堅固で長大な合唱フーガが展開されます。
 
 聖書の言う「偽預言者」は、決して正しい実を結ぶことがない、と書かれています。「偽」のものは必ずや馬脚をあらわすに違いありません。しかしこの世の中に、「偽」ものがはびこることをやめないのは、人々が必ずしも「本物」のみをいつも求めているとは言えないからではないでしょうか。中身のない耳触りの良い言葉や音楽で、私たちの耳は満たされています。真実を求める、ということは、時に感情をかき乱し、痛みを伴うことでもあります。どうぞ、今夜のカンタータから、バッハが伝えようとした聖書のメッセージをおひとりおひとりが受け取ってくださることをねがってやみません。
バッハ・コレギウム・ジャパン 
音楽監督 鈴木雅明

【コメント】

 

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