メリー・クリスマス

「ああ、いいよ」

薫さんの足元を拭こうとしてひざまづいたあなたの上から声がかかりました。

「でもっ」

食い下がるあなたに薫さんは手を差し伸べて立たせてくれました。
冷たいけど、ヴァイオリンを弾く方とは思えないほどやわらかい指先です(食べちゃダメですよ!)。
ドキドキするあなたの前で薫さんは濡れてしまったほうの足を振って水気を払い、言いました。

「ほら、これで平気」

ちょっと笑った薫さんに真正面から見つめられて、あなたは赤面し、布巾をぎゅぅっと握りしめて(ここ!少女らしく!)黙ってしまいました。
そんないじらし気なあなたに薫さんは何か思い付いた顔をして

「やっぱり、着替えに行くから手伝ってくれる?」

と歩み寄って来ました。一瞬、キョトンとしたあなたにさらに近付いて

「私の部屋で、二人きりで」

と耳もとに囁きました。触れそうなほど近くにいる薫さんにあなたは

狼狽えて、後ずさる

「よろこんで!」

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