メリー・クリスマス

あなたは急激にほてり出した顔をもてあまして、美女丸君に背を向けて走り出し、会場に戻りました。
手は意味もなくスカートを押さえつけています。

「おっと」

そんなあなたのせわしない腕が、背後のお客さまの手に当たってしまいました。
ギクリとして振り返れば、ディナージャケットの光沢よりまぶしい響谷薫さんがそこにいました。

「す、すいませんっ」

「いや、大丈夫」

と言いつつもグラスは床に落ち、こぼれたワインで薫さんの袖口は濡れていました。

「着替えないと」

布巾でその手元を拭いながらそう言うと、薫さんはあなたの手に自分の手をそっと乗せました。
えっ?と思って顔を上げたあなたに

「手伝ってくれるのかな?」

と囁きました。そして婉然とした笑みを浮かべて

「私の部屋で、二人きりで」

と耳もとで続けました。触れそうなほど近くにいる薫さんにあなたは

狼狽えて、後ずさる

「よろこんで!」

戻る

Copyright (C) bien. All rights reserved.