想い出の上書き

前に戻る 次に進む エッセイ集目次に戻る 文芸班に戻る


 あたしの趣味はドライブで、昼夜問わず更新のプレッシャーが気にならず、暇とガソリンがあれば愛車「きゃろる・みれいでぃ・愛称未だ決まらず」ちゃんのエンジンをかけて豪快に環状線を外回りに走らせたりしている。
 独身の頃はそれこそ気ままに、国道から脇道にそれて初めて行く様な町へ繰り出したりする。そんな時に限って地図は持たず、燃料計だけと睨めっこしながら走らせていた。プロフィールの<特技>には「高速を使わず札幌まで2時間で行く事」とあるけど、それを日帰りで往復とも同じタイムを出してもあまり疲れない。車を運転する事とはどうやら相性がいいらしい。一時は宅配便の運ちゃんになろうと真剣に考えたくらい。それ程車を運転したりどこかに遠出する事が好きなのである。
 そういう訳で、道内の車を使って1泊2日で行ける大体の観光地は、おおよそ制覇されている。独身時代の話だから独りで行ったのではなく、その時つきあっていた彼氏と一緒のが殆どである。勿論一人でふらふらとドライブした事もあるけれど。
 楽しい想い出ばかりならいい。前にも書いた通り、今となっては思い出すのが憂鬱になっている事が いつか来た風景に思い悩むの図 あるものだから、その相手と一緒にいった場所も鬼門になっていたりする。気にしなきゃそれまでなのだけど、流れていた曲でその当時がフラッシュバックするのと一緒で、その場所でもその頃の出来事なんかを思い出してしまう。そしてまた言い知れぬ切ない思いで「二度と来ないぞ」なんて胸に誓ったりする。それなのにまた訪れてしまい、同じ事の繰り返し。
 例えば富良野。例えば東神楽の森林公園。はたまた北見や紋別。美幌峠に阿寒湖・硫黄山。浦臼の某レストランとそこの果物屋さん。上川のエスポワールの鐘とアイスパビリオン。美瑛の拓真館。麓郷の「北の国から」のセットの家とか展示してある場所。網走の夜景。極めつけは苫小牧のファンタジードーム。もうきりがない。
 滅多に行かない様な場所ならいいのだけど、エスポワールの鐘なんか近くを通る度に鳴らしにいくし、浦臼も札幌に行く時12号線を通りたくない時なんかは必ず通ってしまうし、もうその度に「あぅあぅあぅ」と叫んだりする。これじゃあいつ事故を起こしてもおかしくない。それどころか精神衛生上とてもよろしくもない。
 そこで考えたのが「想い出の上書き」である。「昔」好きだった人と行った場所に、今好きな人と行ってもっと楽しい想い出を作ればいい。別に彼氏じゃなくてもいい。誰か好きな人と行って、その人との想い出に上書きすれば、ドライブの度に激しい動機に見回れる心配はなくなる。
 そういう訳で、今は友人と休みさえ合えば、どこかに出かけたりしている。まだまだ上書きしなければならない想い出は多いけれど、少しずつでも上書きしていければ大丈夫だろう。
 しかし一つだけどうやっても上書きできない想い出がある。一番思い出したくない、過去の汚点とも言える苫小牧の「ファンタジードーム」での想い出だけは、泣き叫ぼうがどうあがいても上書き出来ない。
 何故なら。

ファンタジードームはもうなくなってしまった



                                                     からなのさ(;_;)



(C)1996-2001 Electric Artbox All-round Laboratory
Presented by Maki "PPCal" Miyahara
E-mail:cal@bf.mbn.or.jp