最近、店頭で「じゃあ買い換える」と、言われるお客様が増えている。
そもそも、修理に来られたお客様に修理代金を尋ねられ、「それは・・・位掛かります」、と言ったところ、冒頭の「じゃあ買い換える」と言うのだ。もちろん、買い換えの自転車は専門店ではなくスーパーでの購入を指している。

今回の特集では、自転車を買い換える際に陥り易い誤解と錯覚を示し、後悔しない選択方法を考えましょう。

1.会話の裏にある物
もう長いこと低価格の自転車がスーパーを中心に広がっている、もちろんメーカーもそれに対抗すべく低価格商品の開発に余念がない。それでも、6800円と言う圧倒的価格の前では「国産車」という信頼もメーカーブランドも無意味になる。
それでは、修理金額とはどうだろうか? お店によって料金は異なるけれど、通常の消耗品で高価になる物と言えばタイヤ交換でしょう。タイヤの部品価格と、交換作業に掛かる時間から算出する工賃をプラスすると、前輪で3000〜3500円、後輪は作業時間が少し長くなるので3500〜4500円位であろう。更に、前後同時に交換となるとスーパーで販売されている自転車の価格と同程度になってしまう。

また、乗っていなかった自転車を再度利用しようと、錆び付いたチェーンの交換、崩れて穴が空いた前かごの交換、錆びて動かないブレーキワイヤの交換等々をすると、同様の金額に膨れ上がる。
単純に考えると、「スーパーの新車の方が見かけも良くなるし」と言えるのだが・・・。

2.ちょっと待った!
修理に持ち込まれた自転車が、そうしたスーパーで販売されている低価格の商品だったら、それも選択肢の一つでしょう。しかし、修理に持ち込まれた自転車が国産のメーカー車であったり、スーパーで購入した物でも作りが良いのはある(そうした商品は1万円以下ではないが)。せっかく良い自転車に乗っていても、「修理代と同じくらいでスーパーに売っている」と言って、低価格自転車に買い換えるとどうでしょう。価格もだけど、品質的には下のクラス、耐久性も乗り易さも下がるのは当然のこと、お薦めできる考えではないのです。
是非、このことを忘れずに誤解や錯覚をしないように気をつけてもらいたいところ。

更に、業界団体が調査したところ、1万円以下の自転車の57%が、どこかに問題があるいわゆる欠陥車であったというのが報告されています。
※左の写真をクリックすると、文面が読めます。

低価格自転車の組立を行っている海外の人件費は6000円、それも1ヶ月の賃金がです。ところが、国産車では考えられない、あるいは滅多にない組立や部品の品質上の問題※事例特集−で修理が必要となると6000円/時間と言う、高額な工賃が発生し、+部品代が”無駄”な費用として掛かってきます。※工賃についてはこちら
ですから、全部ではないにしろ当たりハズレがある、低価格自転車の購入にはそうしたギャンブル性もあるのだと言うことを覚悟しておかなければなりません。

3.買い換える際のポイント
結論的に言えば「今乗っている自転車よりも高い自転車に買い換えないと、買い換えメリットは無い」と言うこと。
お乗りになっている自転車が2万円前後以上の国産メーカー車ならともかく、1万円台以下の自転車ならば、その自転車よりも5000〜10000円ほど高い自転車を購入すれば、1クラス上あるいは、2クラス上の自転車を選ぶことが出来ます。
クラスが上がるというのは品質が上がると言うことで、初期トラブルや機械的に早期に壊れる事が少なくなると言うメリットがあるのです。少なくとも、国内の自転車メーカーは、機械的に壊れると信用を失いますから、”国産品”という信頼性を得るためにも一定以上の品質・耐久性を確保しています。

そうした国内メーカー製への買い換え予算が出ないならば、また修理金額が自転車代金を超さない限り、その自転車を修理した方が賢明でしょう。
1万円前後以下の商品で数年以上使えているのであれば、それは”当たり”の自転車なので、簡単に同価格程度の自転車に買い換えをしない方が良いと言えます。だって、次買い換える自転車も”当たり”という保証はなく、ハズレを買うことになるかもしれないのですから。

4.低価格自転車で、もう一つの事
ここでも説明していることですが、自転車の価格と品質は比例しています。6800円の自転車と3万円の自転車には明らかな品質、耐久性に差があります。
それから、全般に言えることとして、安い自転車には鍵を掛けない傾向が強い。あるお客さんから「福岡って何で盗難が多いんですか? 自分の所では鍵掛けなくても持っていく人居なかった」と、聞かれた。「多いね、でも自転車に何で鍵付いてるの、盗難を防止するためでしょ」。
そのように、盗難に遭うことを理由に低価格自転車を選ばれる事も多いのですが、人間というのは勝手な物で、6800円の現金だったら地べたに置いていく人は居ないのに、お金が自転車という商品になると、平気で地べたに鍵も掛けずにそのまま置いて行くんですね。これは「盗って下さい」と、言っているのも同じ事。全国の盗難自転車の40%が無施錠と言う実体があるわけです。
ところが、3万、4万する自転車にはちゃんと鍵掛ける人は多くなる。「すぐ盗られるから安いので良い」の裏返しに「盗られても仕方ない」と、お考えの人は多いようです。そして、6800円なら「いつでも買える」金額?。
ここで質問。午前中雨だったのが、午後は晴れました学校(または会社)の玄関を出たところで傘を忘れてきたことに気づきました、そのときあなたは・・・
・500円の傘だったので取りに戻った or そのままにして帰った
・1万円の傘だったので取りに戻った or そのままにして帰った
さあ、どちらですか。

5.あとがき
今でこそ食品を温めるだけの機能を持った電子レンジならば1万円前後で発売されていますが、電子レンジそのものがこの世に出された当初は10万円ほどしていたのです。他にも、ハイビジョンテレビはおよそ1/10に、プラズマディスプレイも1/2に、家電の世界では同じ機能を持った物が年数と共に低価格化していきます。
しかし、車やバイクと言うのは価格的には上昇する傾向にありますが、その内容を機能で比較すると随分向上しているし、所得水準と比較すると価格という数字に惑わされている事に気づくでしょう。

78年発売パッソーラ(スクーター)  
   79800円 大卒初任給  85000〜95000円  88.6%(収入比)
02年発売JOG−C (スクーター)  
   149000円    〃    175000〜200000円 79.5%( 〃 )
このように、機能はもちろん性能も向上して、所得比率から見れば購入しやすくなっています。

自転車はと言えば、メーカー製自転車の最低価格は下がる傾向にありありますが、品質的に30年前の製品と同等商品で比較すると、金額的には同等で、所得比率で考えれば低くなっていると言えます。