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このページに記載されている主な内容
・ヒートセットモルタルとエアセットモルタル
・ウェットとドライ
・知っておいて欲しいこと

「CHIKUROの館」を1998年1月に正式にUPして以来、数々のメールによる
問い合わせを頂きましたが、一番施工でトラブルや、勘違いが多かったのが、
このモルタルです。昨今では一般市場でも購入出来るようになりましたが、
どう施工するかまではまず説明はありませんし、店頭においてあるモルタルは、
ほとんどが「ヒートセット=熱が加わる事によって硬化する」モルタルだからです。
また、プロの世界では、モルタルの品質を大切にします。使いにくい、パサパサの
製品は2度と使わないようにしたりしますが、そういう選択肢は一般市場では、
まず不可能です。全てとはいいませんが、苦情の話しをメールで伺っていると、
粗悪品としか思えないようなものも出回っているようです。それから、一番勘違い
が多いのが、セメントと同じ施工要領で工事をしてしまうこと。耐火レンガに水を
吸わせて、モルタルで積めば、いつまで経っても固まりません。耐火モルタルで
レンガを積む時はレンガに水はつけてはいけません。そして、もう1点大切なのは、
耐火モルタル、特にヒートセットモルタルは、セメントと違って、常温では硬化
しないことです。温度がかかって焼結して初めて硬化しますが、さして温度が
上がらない、例えばバーベキュー炉の場合、モルタルで積んでも、目地のモルタル
が生原料のままで、雨水がしみて、流れ出すという相談も良く聞きます。ですから
施工の条件によっては違う材料をお勧めする事もあるのです。

「モルタル」語義の解釈の違いについて
建設・コンクリートの業界用語では、セメント+砂+砂利をコンクリート
セメント+砂をモルタル
と呼ぶようですが、私どものモルタルは
あくまで
「モルタル」という製品を指します。お間違えのないように
して下さい。代表的な製品で言いますと、水で練ると、黄色っぽい
土のような色合いで、粘土状になるものを指します。

(メーカーや種類で若干色は違い、灰色っぽいものもあります)
モルタル施工中の
様子(左)と
モルタルを練った
状態のもの(右)

ヒートセット(熱硬性)とエアセット(気硬性)
モルタルには大きく分けて、熱硬性(熱が加わって初めて硬化する)モルタルと
常温〜100℃程度で硬化する気硬性モルタルに分かれます。気硬とは字の如く、
空気に触れて固まる性質があるという事で我々工事業者でも、ついうっかり混錬
した気硬性モルタルを現場に放置して、次の日、カチカチに固まってしまったという
苦い経験をする時があります。使用区分としては、高温域での使用には熱硬性の
モルタルを、そうでない温度域の使用には気硬性のモルタルを使用する。というのが
一般的な考えですが、炉材や使用環境の事も考えねばなりません。モルタルが
いつまでも硬化しないという場合は、熱硬性モルタルが低温で生原料のままという場合
があるのです。気をつけねばならないのは、それならすべて気硬性モルタルで積めば
いいのではという疑問がわくかもしれませんが、高熱がかかる所には基本的には
熱硬性モルタルが適しています。炉の構造とあわせてお話しなければなりませんが、
炉体は熱によって膨張収縮を繰り返すので、目地はいつも一定ではありません。

水気が多い施工場所へは
生原料のモルタルに水がかかれば流れてしまいます。また、気硬性モルタルであっても、
頻繁に水がかかりますと、いつか浸食されてしまいます。では、どうしたらいいのか。
これといった決定打はありませんが、1つは耐熱性のあるセメントを目地材にする事が、
考えられます。通常のポルトランドセメントは構造体として考えると、100℃以上の温度に
さらす環境での使用は好ましくありません。目地材として考えてもせいぜい200℃程度と
考えた方がよいかと思います。400℃にもなれば化学変化を起こし、崩壊が始まります。
これに対し、アルミナセメントという、ポルトランドセメントと単価比較しますと高価ですが、
ある程度の温度に耐えられるセメントがあります。アルミナという成分は耐火物全般に
使われている素材で、例えばこのアルミナに骨材を混ぜたものが不定形耐火物
(キャスター・キャスタブル)と呼ばれる、築炉業界での「インスタントセメント」です。(後頁
で紹介)後は、使用条件で何を目地に使うかという判断になります。

写真は輸入された
純度の比較的高いアルミナセメントです
メーカーでも各種種類があります
(原料コンテントや産地の違い)

施工の要領はほぼポルトランドセメント
と同じで、砂もしくはレンガ屑のような
耐火物を骨材として混ぜて使用します。
最初から、耐火物の骨材が混ざったものが
不定形耐火物(キャスタブル)です。

昔は、石灰とセメントと砂を混ぜて目地材を作る事もあったようです。この場合、
強度はあまりありません。パン釜とかバーベキュー炉のような全体が比較的
低温な炉の場合は内部をモルタルで積み、外側を普通のセメント・赤レンガで
カバー出来れば雨水をしのぎ、屋外でも使用に耐える窯が出来ると思います。

耐火モルタルは、粉状で25キロ入りの防湿袋に入って販売されています。一般市場では
殆どがこの袋入りですが、最初から練った状態(Wet)で缶入りで販売されるものも
あります。粉の袋入りをドライ、練って缶に入ったものをウェットと言います。(下写真参照)

左がドライ、右がウェットの耐火モルタルです。ちなみに、右のモルタルは気硬性モルタル
でもあります。練った缶入りの方が少し値段が高くなりますが、最初から練ってあるので
素人の方でも使いやすいかも知れません。モルタルを練るときは、粉に清水を混ぜて混練
するのですが、ダマが出来やすく(粉が良く混ざらない状態)練り上げるのに慣れないと
大変でしょう。専用のミキサーやハンドミキサーがあればいいのですが。

耐火モルタルのどれを使うか、もしくは他の目地材を使うのか。炉の設計にあたって最初に
考えておきたいものです。(適材適所)環境にあった耐火物を選択するのと同時に、その
環境にマッチした、目地材かどうかも確かめて択ぶ必要があります。屋外の場合は雨水の
問題です。レンガと同様、モルタルにも番手があります。SK34の耐火レンガにはSK34の
モルタルが一番適しています。特殊なタイプには、専用のモルタルがあります。難しい場合で
なければ、同じ組合せのレンガとモルタルでいいと思います。その他、細かい話しですが、
メーカーによって、練った後の感触が微妙に違います。極端な例ですと、練った後も粘りが
なくてパサパサのものは最悪です。レンガに塗りつけても剥げ落ちてしまいます。市場で出会う
商品がどんな素性かまではわからないと思いますが、もし、そういうものに当ったら、当社で
使用しているものでもお試しください。耐火モルタル施工時にレンガに水を吸わせないのは、
耐火モルタルに粘りがあって、レンガに塗りつけても、しっかり塗る広がるからです。この性能
が悪ければ、耐火モルタルを使う意味がありません。

ご注意!よくある勘違い(常識なような非常識)

赤レンガを水につけてからセメントをつけて積む。これは正解です。
水を吸わせる事によって目地のセメントが良く馴染み、目地切れを
防ぐ事が出来ます。
では耐火レンガを水につけて、耐火モルタルで積んだらどうか。これは
大間違い
です。吸わせた水がモルタル目地にしみ出し、いつまでたっても
目地が固まりません。
工事現場でも耐火レンガは雨に濡れないよう
厳重にシートでくるんで保管をしています。耐火レンガは水濡れ厳禁で、
濡れたら乾燥させると覚えておいて下さい。
極端な場合を想定しますと、水分が多く残ったまま、急激に温度を
上げますと、水蒸気爆発の危険性さえあります。耐火煉瓦工事完了後、
こうした水分を徐々に抜くために乾燥焚きという工程もあるくらいです。
「モルタル=業界では粘土ペースト状のもの」という意味も間違えないで下さい。
モルタルを使えないために、やむなく耐火レンガをセメントで積みたい場合は
一度ご相談ください。