2002年12月21日(土)
指揮:パーヴェル・サローキン
演出:ユーリー・グリゴローヴィチ。 プティパ、イヴァノフ、ゴールスキー版の一部を利用
舞台装置:シモン・ヴィルサラッゼ(ヴィルサラッゼ死去にともなう舞台復元はマルガリータ・プロクディナ衣装復元はエレーナ・メルクロヴァ)
照明:ミハイル・ソコロフ
幕が上がると王子の友だちたちがカップルをなして左奥から右前へかけてきて対角線をつくり、最後に王子が登場。その颯爽さはハッとさせる演出。さすがグリゴローヴィチとはじめから唸る。
舞台装置は故ヴィルサラッゼの豪華なもの。ヴァシーリエフ版と比べると華やかさより重さを多く感じる。これが彼の想像するドイツ中世の宮廷イメージなんでしょう。舞台が作るそうした緊張感や雰囲気は最後まで続く。
演出については、第一幕第一場はグリゴロ版の方がいいけれど、ヴァシーリエフ版も悪くはなかった。ただ第二場以降はもう、そりゃ、やっぱりこっちが断然上。というか、ヴァシーリエフ版は一種の実験的、過渡的なものだったということがこれをみることでよくわかった。
結末は、「叙情的なコーダがくるはず」のところで突然第一幕序曲の短調が金管のフォルテで帰ってきて、コントラバスがピアニシモで白鳥のテーマを奏でて終わる。
悲劇で終わると知っていたけれど、あまりに突然の出来事。悲劇はそうしたものといえばいえるけど、いきなり終わっちゃったという印象は否めない。
二人が死ぬことで、その愛の力でその他の白鳥にされた娘たちが生き返るというものでもなく、オデッタとの約束を破ったことで、彼女は死に、ジークフリートはひとり岸辺に取り残されて終わる。
バレエについて言えば、今晩の見所は1幕2場のロートバルトの登場場面。ベロガロフツエフの影のある雰囲気をもった踊りがすばらしく、ウヴァーロフと二人で跳躍を競うわけなので、悪かろうはずがない。
長身ウヴァーロフは、あの広い舞台をゆっくりふんわり大きく十分な高さで飛びまわるが、王子のやわな面を備えていて役にはまっていた。でももう一つ先が欲しい。
そしてオデッタはステパネンコ。白鳥の役もいつもながら理知的に淡々と踊る。よくいえば底光りする柾目のバレリーナだけど、ジークフリートとのアダージョでもためいきが出るほどではなく、またオディーリアになってもあまり代わりばえしない。もっとアクが欲しい。回転の安定度はぴか一で、オケのテンポが遅めなこともあり、32回転では余裕すら見せていた。
他のソリストはヤーニン、アラーシュ、ヤツェンコなど豪華メンバー。
でもヤーニンは2幕は安定してたが、1幕では軸が不安定。この振付では道化が第一幕第一場、第二幕第一場の主役のひとりだけど、普通の合格点という感じ。
スペインの花嫁候補アラーシュは、いつもながら顔は笑っているけれど、どってりと重く、また表情が貧しい。ミルタで見せた繊細さはどこへいった、という感じ。
席はいつものロージャ・ベヌアーラ(一階ボックス席)ではなく、ロージャ・ベリエタージュ(二階ボックス席)一列目。だからかオーケストラが、ききなれた「あの音」ではなく、薄め。でも第一幕第二場オデットのヴァリアシオンの頃から絹の肌ざわりでかつ鋼鉄の力強い弦の音が戻ってきた。
全体的にはグリゴローヴィチ+ヴィルサラッゼのやや暗く、いい意味での重さのある舞台でした。
モスクワ・ペテルブルクの劇場に戻る
ぜいたくはすてきだに戻る
モスクワどたばた劇場に戻る